読者を想像力の奴隷にする、挑戦的な本である(笑)
今回紹介する書籍は、その続編ともいえる「多様体とは何か」である。
相も変わらず、想像力と直観力をふんだんに要求してくるが、「高次元」そして「多様体」を見て感じさせてくれる一冊だ。
そんな本書で取り上げられているトピックを3つ挙げるとすれば、
① 多様体の定義:n次元多様体とは各点のまわりがn次元開球体となる図形
② 物理における多様体:自然界を探求するのに多様体が必要不可欠である
③ ポアンカレ予想はまだ終わっていない:(P,4)と(D,4)を解けばフィールズ賞
さてさて、これらをかいつまんで説明していこうェ
悟りとは、生涯つかみ得ぬものと心得ております by 石川五ェ門
そもそも「多様体」とはいったい何か?
ブログ主の簡易なイメージとしては、「その中で好きなところに」、「局所的に」、「次元の低い座標系を描ける」、大局的な図形・空間である。(地球儀のとある一点(国)では、平面の地図が描けるといった感じ)
以前、ポアンカレ予想を紹介した記事でも軽く触れたが、この書籍ではさらにしっかりその定義を説明してくれている。(というより、多様体を「幻視」するにあたっては、その定義をある程度きちんと理解する必要があるからだ。)
低次元から説明していくと、0次元多様体とは、点何個かのことである。
ここで、a<bとなるような実数a,bを適当に選び、
a<x<b
で表される区間を「開区間」と呼ぶ。(これが「≦」なら、「閉区間」と呼ぶ。)
1次元多様体とは、その図形に含まれる点はどの点も、その点のまわりは開区間になっている図形のことである。
1次元での「開区間」を、2次元での「開円板」や3次元での「開球体」というように拡張しよう。
2次元多様体とは、その図形に含まれる点はどの点も、その点のまわりは開円板になっている図形のことである。
3次元多様体とは、その図形に含まれる点はどの点も、その点のまわりは開球体になっている図形のことである。
…なるほど、わからん(笑)
このあたりからして既に想像力を強いてきているのだが、まだまだ戦いは続くぜ?(笑)
同様の拡張を高次元に当てはめれば、
n次元多様体とは、各点のまわりがn次元開球体になっている図形である
さすがに本書ではこのあたりを図解しているので、興味を持った方は是非ご一読を。
女の子から隠し事をとったら何も残らないわ by 峰不二子
多様体は、大学の数学科では3年生で必修科目として全員が習う。
そして物理学科でも、4年生や大学院生で相対論や場の量子論などの選択科目を習いだす前に、準備段階として勉強する人が多い。
そのくらい基本的なことなのだ。そして学習も早い時期から始まる。
大雑把な話だが、すべての数学や多くの物理が多様体を依り代に研究されており、ある意味で初歩的な分野ともいえる。(その割には広汎かつ高度であるが(笑))
具体例を挙げよう。
場の量子論での標準模型は、SU(3)×SU(2)×U(1)対称性という、3次元特殊ユニタリ群(8次元閉多様体)と2次元特殊ユニタリ群(3次元球面)と1次ユニタリ群の直積多様体である。
これは素粒子物理学分野で自然界を記述するのに用いられ、数学上は12次元多様体である。
また、以前にも取り上げた超弦理論では、我々のまわりの縦・横・高さ・時間の4次元にカラビ-ヤウ 3-foldという6次元多様体を組み込んでモデル化している。(合計で10次元多様体を自然界のモデルとしている。)
このように、自然界を調べるのに高次元多様体は避けることができないものといえるのだ。
…いや、避けたいぐらい超難しくはあるんだけどね(笑)
いい女ほど簡単には微笑んでくれないのさ by ルパン三世
上の項でも述べたが、改めてポアンカレ予想を取り上げた記事のリンクを貼ろう。
この予想自体は、2003年にグリゴリー・ペレルマンが幾何化定理の帰結として証明しており、別名「ペレルマンの定理」として解決されている。
…そう思っている方も多いだろう。
しかし!!ポアンカレ予想のいくつかのバリエーションはまだ未解決であり、まだまだ多様体を巡る戦いは続いているのだ!!
ここではそうした「ポアンカレの宿題」を取り上げよう。
少し専門的になるが、開区間の種類によって多様体は「位相多様体」と「PL多様体」と「微分多様体」に分けられる。
ここでポアンカレ予想をそれぞれに当てはめると、
(D,n):微分圏n次元ポアンカレ予想 微分n次元多様体Mがあったとする。Mの中にp次元球面 (0≦p<n)をどう置いても、Mの中で連続変形で1点に潰せるとしよう。このとき、Mはn次元球面に微分同相である。
(P,n):PL圏n次元ポアンカレ予想 PLのn次元多様体Mがあったとする。Mの中にp次元球面 (0≦p<n)をどう置いても、Mの中で連続変形で1点に潰せるとしよう。このとき、Mはn次元球面にPL同相である。
(T,n):位相圏n次元ポアンカレ予想 位相n次元多様体Mがあったとする。Mの中にp次元球面 (0≦p<n)をどう置いても、Mの中で連続変形で1点に潰せるとしよう。このとき、Mはn次元球面に同相である。
ポアンカレ予想がどこまで解けたかをまとめると、
「解決済み」 (T,1)、(P,1)、(D,1):YES (D,2)、(D,3):YES (D,n) (n≧5):5,6ではYES、それ以上でNOとなる次元が無限個存在する (P,n) (n≠4):YES (T,n) (すべてのn):YES
「未解決」 (P,4)、(D,4):これらは答え(YES or NO)がともに同じになることは知られている (D,n) (n≧5):これらnのいくつかはまだ解かれていない
単にポアンカレ予想が解けたというと、(D,3)・(P,3)・(T,3)がYESだと解いたペレルマンの業績を指すことが多い。
しかし、上記のようにまだまだ「ポアンカレの宿題」は残っているのだ。
フィールズ賞を狙うなら、ここだ!!
(もちろん、数学史に永遠に名前が残るぐらい難しい問題であるが(笑))
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここで紹介したのはおすすめ書籍に関する概要と多様体を扱う数学のほんの一部である。
もっと知りたいと思ったら、本書を一読して、「数学の森」の奥深くに進んでみよう。
目指せ!!数学の愛人(笑)!!これぞ賢者への道程!!
コメント