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無限とカオスに思いを馳せる その①

数学

「無限」と聞いて、いったいどんな数学の言葉が浮かんでくるだろうか?

アキレスと亀…超準解析…連続体仮説…カントールの対角線論法…無限ラムゼイ問題…etc.

では、「カオス」についてはいかかだろうか?

複雑系…バタフライ効果…フラクタル…ライフゲーム…ウルフラムのクラスⅣ…etc.

有限な我々人間にとって、深淵の果てにあるこれら2つのキーワード:無限とカオス

「数学」という分厚い書物のうち、人類はその第一章「線形」の部分を何とか読み終えたにすぎず、つまりその大部分を占める「非線形」の部分は、かろうじてその最初のページを読みはじめたにすぎないのだ。

…そんなわけで、本記事および次回記事ではこれら無限とカオスについて、その歴史背景も含めて分かりやすく紹介してくれている書籍を紹介しよう。安心なされい、複雑な式はいっさい登場しない…多分(笑)

まずは第一幕:「無限とはなんだろう 限りなく多く、大きく、遠いふしぎな世界」

本書では、おもに数学的な立場から、代数・幾何・解析における無限の考え方を解説してくれている。挿絵もふんだんに使われており、とっつきやすいライトな書籍という印象だ。

今回はそんな本書の中から、個人的に面白いと感じるトピックを3つ挙げよう。

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超越数 ~個数の違いから存在が…~

その昔、ピタゴラス学派は、√2が無理数であることを知り、それが教団の教えに反する恐ろしい事実だったので、秘密にしようとした。

彼らは具体的な数√2が無理数であることを証明して、無理数の存在を知ったのである。

ところで、我々は無限の個数の比較の仕方を知っている。そして、実数の個数が有理数の個数(=可算個)より大きいことも知っている。(詳細は参考書籍を読まれたし。悪しからず。)

つまり我々はその時点で、具体的な数を1つも調べなくても、有理数でない実数、すなわち無理数の存在がわかったのである。個数を数えるだけで、ある種の数の存在を知ったのだ。

同じ議論で超越数の存在を示すこともできる。

整数を係数とする、
anxn + an-1xn-1 + … + a2x2 + a1x + a0 = 0
という形の方程式(代数方程式)の解で表される複素数は、「代数的数」と呼ばれる。

そして、代数的数でない複素数は「超越数」と呼ばれる。

有理数(a/b:a,bは整数、b≠0)は代数的数である。なぜならば、bx-a=0の解だからだ。

√2は有理数ではなかったが、x2-2=0を考えれば、代数的数であることは明らかだろう。

代数方程式の個数は可算個だということが知られている。また、n次方程式には高々n個の解しかない(代数学の基本定理)から、各代数方程式の解の個数は有限個である。その有限集合を可算(=代数方程式の個数)通り集めてきても、全体で可算個としかならない。したがって、代数的数の個数は可算個である。

ところが実数は可算個より多いので、実数の中には代数的数でないもの、すなわち超越数があることがわかるのだ。

それでは、どんな数が超越数なのだろうか。

円周率πや自然対数の底eは超越数であるが、その証明は非常に複雑である。

しかし、ここで見たように、超越数が存在することは、具体的な数が超越数であることを示さなくても、個数を比較することで簡単に分かってしまうのだ。

バナッハ – タルスキーのパラドクス ~1つの球が2倍に~

バナッハとタルスキーはともにポーランドの数学者である。当時ポーランドでは、数学の基礎的分野で世界の最先端の研究を行っていた。

スコティッシュ・カフェという名の喫茶店があって、そこでバナッハ、ウラム、マズールら当時の若手がしょっちゅう集まって何時間も議論したというのは伝説的である。バナッハが厚いノートを持ちこみ、議論した問題を記していくことになった。そして、そのとき出された未解決問題が後に、スコティッシュ・ブックという本になったのだ。中には出題者からワイン1瓶、生きたガチョウ1羽などという賞が賭けられた問題もあった。

1924年、バナッハとタルスキーは次の発見をした。

球の表面と内部を合わせた立体を球面とは区別して「球体」とよぶことにしよう。
半径1の球体を用意する。
その球体を、あるうまい方法で有限個に分解する。
そしてそれぞれの欠片に合同変換(回転と平行移動)を施し、カチャッっと組み合わせなおすと、もとと同じ半径1の球体が2つ出来上がるのだ。

(意味が分からんわ!!…って人は↓リンクの図を参考にされたし)
バナッハ=タルスキーのパラドックス - Wikipedia

例えば、球体を9個に分け、そのうち4個と5個をそれぞれ組み合わせると、隙間のないもとと同じ球体が2個できるというわけである。

最初の球と比べて、出来上がりは体積が2倍になっている。そんなことは不可能だと思われるだろう。しかし、これは矛盾していないのだ。

どんな集合も体積を測れるわけではない。そこで、球体を欠片に分けたとき、体積が測定不可能なものに分けたのだ!!体積が測れないので、組み合わせなおして、どんな体積になっても矛盾しないのである。

…( ゚Д゚)ハァ? 何言ってんだ?(笑)

だが、この定理そのものは選択公理(全射に関する有名な公理:本書を参考にされたし)を用いて証明される。このことから、こんな変なことが証明できるのだから、選択公理はひょっとして間違っているのではないかという見方もある。

連続体仮説(これも本書を参考にされたし:カントールのメンタールを破壊した有名な仮説)と同様、選択公理は「選択公理を除いた我々の数学」からは否定も肯定もできないことが知られているのだ。

(かの有名な「ゲーデルの不完全性定理」を使って証明される。何回も本書を勧めるのは飽きた(?)から、↓の記事のおすすめ書籍も読まれたし(笑))

とてつもない数学 おすすめ理学書籍
何百年前も前に記された音符が生まれ育った国も性別も目の色もなにもかも違うふたりに同じ音を思い描かせるわかり合え...

現在、「選択公理と全く異なる」、「選択公理と矛盾する」ような公理系をもつ世界も、可能な世界の1つとして研究されている。

…( ゚Д゚)ハァ? 何言ってんだ?(笑)

ヒルベルト立方体 ~無限次元とはどんなもの?~

n次元ユークリッド空間Rnとは、(x1, x2,…, xn)という、n個の実数列の集合だ。n=1, 2, 3のときはそれぞれ、数直線, 平面, 空間のことである。n=4のときは、4番目の座標を時間と考えて、空間と時間を合わせた「時空」として物理学で扱われることも多い。

この調子でいくと、無限次元ユークリッド空間Rとは多分、(x1, x2,…, xn, ……)という実数の数列の集合と考えられるだろう。

ところがどっこい、残念ながらRそのままでは、ベクトルの大きさとか点どうしの距離が測れない。例えば、ベクトル(1, 1, 1, ……)の大きさは√(12+12+12+……)=∞となってしまい、体系としても都合が悪い。

そこで無限次元を扱う場合、Rの要素で、大きさ√(x12+x22+……)が有限の値に収束するものだけを集めてきた「ヒルベルト空間」が選ばれることが多い。(1対1対応を考慮すると、ヒルベルト空間もRも同相であることが知られている。)

ここで質問。無限次元はなぜ必要か? 具体的にはどんなものがあるか?

想像しにくいが、現代数学や現代科学では無限次元を避けて通れない。

上述したように、数列全体の集合は無限次元である。また、微分可能(あるいは連続)関数全体も無限次元である。空間内の曲線全体の集合も無限次元である。物理の1分野で、ブログ主が愛してやまない量子力学も、このような無限次元の世界の話である。

では、無限次元だとどんな不思議なことが起こるか? 例を挙げよう。

I=[0, 1]を単位閉区間とすると、I2=I×Iは正方形を現し、I3=I×I×Iは立方体を表わす。

この勢いでI=I×I×……を考えてみよう。これは「ヒルベルト立方体」と呼ばれる。

例えば、IとI2は、それぞれ区間と正方形で、異なる図形である。これらと区間Iとの直積を取ってみよう。すると、I×I=I2は正方形であり、I2×I=I3は立方体であり、これらもやっぱり異なる図形となる。

それでは、無限次元Iとの直積をとったらどうなるか?

詳細は本書に譲るが、ざっくばらんに言うと、

可算個ℵ0に対して
ℵ0 + 1 = ℵ0

つまり、
I × I = I1 × Iℵ0 = I1+ℵ0 = Iℵ0 = I

…な~んて摩訶不思議アドベンチャーが起こる。要は、IとI2が、共通のIという図形との直積を取ると、同じ図形となってしまうのだ。

…( ゚Д゚)ハァ? 何言ってんだ?(笑)

この…( ゚Д゚)ハァ?…な考え方を応用しよう。線分Iなら両端点、正方形I2なら周、立方体I3なら表面に境界(=縁)がある。だがヒルベルト立体Iでは、境界と思われるところが境界ではなくなっていて、あらゆる点が平等(=境界なし)であることが知られているのだ。

…( ゚Д゚)ハァ?…( ゚Д゚)ハァ?…( ゚Д゚)ハァ?…… = ( ゚Д゚)ハァ?:可算個(笑)

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ここで紹介したのはおすすめ書籍で語られているトピックのほんの一部である。

もっと知りたいと思ったら、専門書を目印に、「数学の森」の奥深くに進んでみよう。

どっぷり浸かろう!!無限の深淵に!!これぞ賢者への道程!!

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