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宇宙が見える数学 おすすめ理学書籍

数学
まず、次のクイズを考えてください。

読者のあなたは、今地球にいます。
そして、地球で宇宙船に乗ります。
その宇宙船で地球から宇宙に出発します。

方向をひとつ決めて、
宇宙をどんどんまっすぐ進みます。
さて、どこに行くでしょうか?

宇宙船はいくらでも長く飛べるとします。
やや、SF的な設定のクイズと思ってください。
もしくは理想的な仮定で考えます。
頭を空っぽにして、空想してください。

~中略~

さて、答えのひとつの可能性として、
こういうものがあります。

「自分が、もといた場所に戻ってくる」
(もといた場所というのは最初、地球で、もといた場所にです。)
しかも、宇宙の大きさは有限であるというものです。
さらに端もありません。

もといた場所に戻るということは、
(特別な、ものすごく高性能な)天体望遠鏡で遠くを覗くと、
(ややSF的誇張がありますが)自分の頭が見えるということです。

~さらに中略~

宇宙の研究と数学の研究はともに発展してきました。
ちょうど宇宙論が革新的に進歩を始める頃に、
高次元などが数学で研究されていたことも一因です。

宇宙の形を考えていたら、
物理よりも数学寄りのことを考えるようになり、
そのまま数学者となった人もいます。

それでは、これから「数学」を道案内にしながら、
皆様と一緒に宇宙に飛び出し、
宇宙の涯てへと旅に出たいと思います。

(本書「まえがき」より抜粋)

以前に「高次元」と「多様体」というテーマでおすすめ書籍を紹介したことがある。

そして、本記事ではそれら書籍の著者による新作↓を取り上げよう!!

概要をサラッと述べると、前作前々作の内容を振り返りつつ、宇宙論や量子論との繋がりを分かりやすく教えてくれている。

つまり、↓の記事を知っているとより楽しめるということだ!!(宣伝(笑) 悪しからず)

高次元を見る方法 おすすめ理学書籍
高次元や4次元、異次元という言葉を科学入門書やSF小説・SF映画・SFアニメなどで聞いたことがある人は多いだろう。...
多様体とは何か おすすめ理学書籍
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ミレニアム懸賞問題を知りたい その③
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今までの書籍と同様、今回も相変わらず想像力と直観力をふんだんに要求してくる刺激的な図が、これでもかと散りばめられている。なんなら、自分でそれら模型を工作する手順まで教えてくれている。

逆にいうと、前作までの復習、および、ちょっとした追加要素と理論物理学への拡張の説明といった感じであり、そこまで深く掘り下げる新規トピックは無かったかなと。

したがって本記事では、追加のトピックと取り上げられた理論物理学の項目に関する私見を述べていこう。乞うご期待!!

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我らは機械が簡単に測れる関係ではないということだ by 石川五ェ門

<前回までの復習>
・トーラス
・メビウスの帯
・クラインの壺

<NEW!!>
・ボーイ・サーフェス

ここに自由に伸び縮みする素材でできた長方形がある。なお「表」と「裏」で色が違うとする。

①向かい合う2辺を同じ向きに重ねてみよう。すると筒の形になる。これをトポロジー(位相幾何学)では「アニュラス」と呼ぶ。

②向かい合う2辺を逆向きに重ねてみよう。有名な「メビウスの帯」になる。

③向かい合う縦2辺と横2辺を同じ向きに重ねてみよう。するとドーナツの形になる。これが「トーラス」だ。

④向かい合う2辺を同じ向きに、もう2辺を逆向きに重ねてみよう。3次元空間ℝ3では不可能だが、4次元空間ℝ4に拡張すると、それができてしまう。できあがる図形を3次元空間ℝ3に『模式的に』図示したものは「クラインの壺」と呼ばれる。

クラインの壺 - Wikipedia

ここまでは、前作までの復習だ。

では、向かい合う縦2辺と横2辺を逆向きに重ねてみるとどうなるか?

これは2次元実射影空間ℝP2と呼ばれ、4次元空間ℝ4の図形となることが知られている。

これを『模式的に』3次元空間ℝ3に描出したのが「ボーイ・サーフェス」だ。

ボーイ・サーフェス - Wikipedia

先ほどから『模式的に』と強調してきたが、実際の4次元空間ℝ4から3次元空間ℝ3に視覚的に落とし込む際に、前々作の結び目理論のときと同様に、クラインの壺なら3次元で図形内の重ねる部分を4次元に移して考える。ボーイ・サーフェスなら5次元まで拡張して移す。

(このあたりの、「3次元では不可能だが高次元なら可能な操作」例は、百聞は一見に如かず。本書の図を是非とも見ていただきたい。)

超弦理論がまさにそうだが、単に3次元もしくは4次元だけを調べようとしても、深いことを考え出すとその中に繰り込まれた高次元が必然的に重要になってくるということである。

女の欲望は限りないものよ by 峰不二子

<前回までの復習>
・宇宙の形の可能性:3次元球面S3
・一般次元ポアンカレ予想
・1次元球面S1 × 2次元球面S2

<NEW!!>
・ブラックホール/ワームホール/ホワイトホールの構造はS1 × S2

冒頭の「まえがき」の答えとして、そして多くの研究者が支持していることとして、宇宙の形は3次元球面S3だとする説がある。これは、観測こそされてはないが、現在構築されている宇宙論の理論に矛盾なく拡張できる。

話題は変わって、相対論の中で理論的に予測され、実際に2022年に電波望遠鏡にて撮影されたブラックホール。ブラックホール近傍・表面・内部といった領域は、量子論と相対論が交わる極限の状況であり、現在の枠組みでは理論が破綻してしまう。そんな究極の状況下での成立を目指すのが量子重力理論、つまりは「超弦理論」や「ループ量子重力理論」といったものになるわけだ。

そんなブラックホールが吸い込んだものはどこにいくのか?

答え(?):ワームホールという通路を通り、ホワイトホールから出ていく。

SFじみた話だが、そんなモデルを考え、実際にマルダセナといった高名な理論物理学者達が研究をすすめている。

ここで、トポロジーを考えよう。

3次元球面S3に穴(ブラックホール)があき、通路(ワームホール)を通って、同じ3次元球面上に別の穴(ホワイトホール)を作る。

この構造はS1 × S2とされるものであり、S3とは違う図形である。

つまり、ブラックホール/ワームホール/ホワイトホールが構築されると、宇宙の形がS3からS1 × S2に改変されてしまうのだ!! うーん、スケールがでかい(笑)

では、S1 × S2でも現在の宇宙論と矛盾なく拡張できるのか?

…答え:できる。

さらに言えば、詳細は割愛するがℝP3やポアンカレ・ホモロジー球面といった図形でも?

……答え:拡張できる。ただし、5次元空間ℝ5を考える必要がある。

さらにさらに言えば、そんな図形(宇宙の形の候補)はどれぐらいあるのか?

………答え:無限個(笑) ただし、次元をいくらでも足し加えられるとして。

冒頭に宇宙の研究と数学の研究はともに発展してきたとあったが、上記の部分だけでも、単に実験からの帰納・演繹として構築された理論物理の枠組みだけでは、立ち行かなくなってきているのを痛感するブログ主である。

人生を楽しむコツは、どれだけバカなことを考えられるかなんだ by ルパン三世

<前回までの復習>
・結び目理論
・ジョーンズ多項式:向き付けられた絡み目に多項式を付随
・コバノフ・リプシッツ・サーカー stable homotopy type:ジョーンズ多項式の強化版

※ジョーンズ多項式:
向き付けられた絡み目」を、なんでもいいのでひとつとる。
それにジョーンズ多項式V(K)をひとつ対応させる。
ただし、以下の規則を満たすようにする。
(1) 自明な結び目Tのジョーンズ多項式V(T)を1とする。
(2) 向き付けられた絡み目K+,K-,K0があったとする。それらはスケイン関係にあるとする。この場合、次の関係式を満たす。

t-1VK+(t) - tVK-(t) = (t1/2 - t-1/2)VK0(t)

<NEW!!>
・3次元空間ℝ3内の絡み目に付随する「(場の量子論の)経路積分」を作ると、それがジョーンズ多項式を表わすと主張し得る。

経路積分
物理学者リチャード・ファインマンが考案した、量子論の計算手法。
本質的にシュレディンガー方程式やハイゼンベルグ行列力学と等価な理論。

詳細は本書に譲るが、ジョーンズ多項式はどの絡み目に対しても明確に計算できる多項式である。しかし、その3次元の図形としての説明・解釈が課題であった。

そこで、超弦理論研究のリーダーである物理学者エドワード・ウィッテンは、3次元空間ℝ3内の絡み目に対して経路積分を計算し、その計算結果がジョーンズ多項式だと考えられる、と提案したのである。

ジョーンズ多項式は数学的に厳密に定義されたものだが、その自然な解釈が数学的には厳密でない「物理の場の量子論の経路積分」によってなされた。

これは、数学・物理哲学史上の大事件とされている。

3次元多様体に拡張した絡み目に関する経路積分の計算とジョーンズ多項式の定義づけはまだ未解決だが、ウィッテンは結び目・絡み目が場の量子論や超弦理論の刺激的な「toy model:玩具模型」(実際のモデルを構築するためのかりそめのモデル)と見なせると発見したのだ。

(おまけ) 俺に言わせりゃロマンに欠けるな by 次元大介

現在、『「素粒子の標準模型」と「一般相対性理論」の統一理論』として有力な候補が超弦理論です。
そのほかにも有力な候補は存在します。
それが「ループ量子重力理論」というものです。

超弦理論とループ量子重力理論の関係は、こう考えられているようです。

どちらかが正しくてどちらかが間違っているというのではない。
2つの理論にはなんらかの関係があるのだろう。

たとえば、
どちらかの理論がもう一方の理論の低エネルギー極限になるのではないか。
あるいは、
両理論の実験値の予想は(どちらかもしくは双方でちょっと変数変換すれば)
同じになるのではないか。

その根拠のひとつは、
(本書の意図ではないので、この詳細には立ち入りませんが)
実際に両理論に現れる数学に、
似たもの(上述ジョーンズ多項式のようなもの)が多いことです。

その理論背景から超弦理論は数学寄り、描像背景からループ量子重力理論は物理寄りというざっくばらんな支持の傾向がある。

それにもかかわらず、数学者である著者がループ量子重力理論について述べていることに、感動を禁じ得ないブログ主(ループ量子重力理論推し)である。

望むべくは、ノード(点)とリンク(線)から構成されるスピンネットワーク、それら空間構成の変化(時間要素)を加えたスピンフォーム(泡)など、こちらにも位相幾何学的に介入の余地がいくらでも残っているので、それらを研究するトポロジーの発展を願うばかりだ。

(既にそういう研究は進んでいるから教えてあげるよ…って方がいたら、ご一報いただければ幸い。勉強不足、サーセン(笑))

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここで紹介したのはトポロジー(位相幾何学)と宇宙論を扱う数学のほんの一部である。

もっと知りたいと思ったら、本書を一読して、「数学の森」の奥深くに進んでみよう。

そして、専門書を読みふけって、「知識の宇宙」へ探索に出かけよう。

目指せ!!数学の愛人 & 宇宙の住人(笑)!!これぞ賢者への道程!!

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