2016年に113 Nh (ニホニウム)がアジア発・日本発の新元素として元素名登録されたことをニュースで観た人もいるだろう。
高校化学で、なんなら一部の一貫校なら中学のときから、誰しもが教わる元素周期表。
ではここで問題。
問:現在、周期表にある元素は何個か?
解:118 Og (オガネソン)までの118個。
多っ!!7周期目の希ガスまでコンプリートしているではないか!!
縦軸(族)でも横軸(周期)でも興味深い性質を示す元素周期表。
そんな多様性豊かな元素を一から学ぶポイントを3つ挙げるとすれば
① 原子核の安定性は陽子と中性子のスピンに影響される
② 元素の性質は電子のスピンと軌道に影響される
③ 新元素はどんどん生み出されていく・・・かもしれない
さてさて、これらをかいつまんで説明しよう。
旅の準備その①:原子核の安定と魔法数
まず大前提だが、構成する陽子と中性子の数が多いほど、原子核は不安定になる。
92 U (ウラン)やその核崩壊過程で生じる94 Pu (プルトニウム)より大きい元素が自然界に存在しないことも、その事実を裏付けている。
また、原子力発電や核兵器で登場する「核融合」や「核分裂」という言葉が指し示すように、原子核の中には壊れやすいもの、もしくは融合しやすいものがある。
ウラン235や重水素・トリチウムはその最たる例だ。
では、そんな原子核の安定性はどうやって決まるのか?
それを考えるには量子力学の知識が必要になってくる。
詳細は専門書に委ねるが、陽子と中性子には自身の回転(スピン)の状態によって、安定して原子核を構成できる数が決まっているのだ。それらはズバリ「魔法数」と呼ばれる。
陽子数(or中性子数)=2,8,20,28,50,82,126 (中性子なら152も)
原子核を構成する陽子と中性子の数が、こうした「魔法数」と呼ばれる数に一致するかどうかで元素の安定性が決まる。
例を挙げるならば、陽子数2+中性子数2のヘリウム4、8+8の酸素16、82+126の鉛208などは二重魔法数を成しており、周期表で周囲の他元素や同素体と比べても非常に安定して存在する。
もちろん、魔法数に一致しないと原子核として存在できないわけではないが、やはり安定性が低いために核崩壊までの時間が短くなってしまう。
後述の新元素探索に関しても、これら魔法数による原子核の安定性評価は重要である。
旅の準備その②:元素の性質と電子配置
原子核の安定性、つまり元素の存在のしやすさは陽子と中性子で決まる。
では、元素の性質はどうやって決まるのか?
ずばり、電子の軌道とスピンで決まるのである。これを「電子配置」と呼ぶ。
こうした原子・分子の性質を量子力学的に研究する分野が「量子化学」であり、他にも化学反応のメカニズムや有機合成の経路選択などに関わっている。
話を電子配置と元素の性質に戻そう。
例えば、電子配置に価電子が1個だけであれば陽イオンになりやすかったり、電子配置が緑の光を吸収しやすいと元素自体は赤く見えたり、電子配置で磁気スピンの自由度が高ければ磁性を帯びやすかったり・・・etc.
これまた詳細は専門書に委ねるが、各元素の性質はその電子配置によって決まるのだ。
ちなみに、周期表で同一族内の元素が似通った性質をもってたり、同一周期内の遷移元素が似通った性質をもっているのも、こうした電子配置の類似性が関わっている。
旅の準備その③:元素探索の船と羅針盤
こうして、魔法数で原子核の安定性を、電子配置で元素の性質を評価できるわけだが、では元素自体はいくつまで作ることができるのだろうか?
陽子が∞、中性子が∞、合わせて無限大個の元素を生み出せる!!
・・・とは、さすがにいかない(笑)
前述したとおり、この宇宙で自然に存在している最も原子数が大きい元素は92 U (ウラン)、もしくはその核崩壊過程で生じる94 Pu (プルトニウム)である。
それ以上の元素は人工的に核融合させて生み出されたことを考えると、構成する陽子数と中性子数が大きいことは原子核を不安定にしているのが分かる。
では、118 Og (オガネソン)を超える元素を作り出すためにはどうしたらよいか?
鍵となるのはやはり魔法数の組み合わせ、そして核融合反応の技術発展だろう。
現在、理論計算で陽子数=114,120,122,126、中性子数=184,228などの魔法数も予測されており、これらを組み合わせて安定性の高い新元素の核融合反応を計画している。
また、核反応の起こりやすさを上げるために、できるだけ原子番号の離れた元素の組み合わせを選んだり、それらの反応時の励起エネルギーを上げたり(「熱い」核融合反応と呼ばれる)、そもそも次世代型加速器を開発したりなど、核融合技術の進化も進んでいる。
2030年には120~122番目の元素発見が期待されるが、はたして未来はどうなるだろう?
そんな元素を一から学ぶとしたら、まず下記のインプットをおすすめする。
魔法数と電子配置については、それぞれ量子力学と量子化学の入門書や専門書で丁寧に解説されているので、ここでは割愛する。悪しからず。
新元素発見・・・周期表という地図上で「魔法数」を頼りに未開の島を探索する旅
元素について一から学ぶなら…この記事ではその一歩目におすすめの本を紹介した。
ただし注意!!これらはインプット!!
さらに深く習熟したいなら専門書や演習問題などのアウトプットをお忘れなく。
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