いろんな分野の書籍が出回り、科学がどんどん身近になっていく昨今。
本屋などで超ひも理論(正確には超弦理論)という文字面を一度は見たことがあるだろう。
「なんか難しい物理学の理論なんでしょ?」
…その通り!!超弦理論とは、現代物理学の二本柱である量子論と相対論を矛盾なく統合する、いわゆる「万物の理論」の有力候補なのだ。(ブログ主としては、もう一つの候補であるループ量子重力理論の方を推しているが、これもまぁ好みの問題であろう。)
「なぜヒモなの?」 「なぜ超なの?」 「次元が10次元ってどういうこと?」
…そんな疑問が浮かぶのも当然である。もちろんこれらには理由があり、とても美しい数学的整合性によって導かれている。(あくまでブログ主の感覚だが、数学的手法を重視すれば超弦理論、物理的描写を重視すればループ量子重力理論、といった印象がある。)
思うに、超弦理論は名前のインパクトが独り歩きしていて、でも内容が難しくて、なんかこう「最強の摩訶不思議理論」的な扱いを受けているようだ。
(ちなみに、あまり給料が良くない研究者にとって、配偶者なり彼氏彼女なりのヒモになることで生計を立てることを「ヒモ理論」と暗喩することがある。「分かるわぁ~」ってなった方もいるだろう(笑))
本記事では、そんな超弦理論の基本事項を自分なりにまとめて紹介していこう。
↓参考にしたのは、超弦理論の第一人者である大栗博司先生が、初学者にも分かりやすく超弦理論を解説した本である。とてもおすすめの一品!!
超弦理論のポイントを3つ挙げるとすれば、
① 「超空間」での「超対称性」を採用した「弦理論」⇒「超弦理論」
② 超対称空間に光子を当てはめると、数学的に9次元になる
③ 理論はさらに進化して、「M理論」へ
さてさて、これらをかいつまんで説明していこう。
縦の糸はボソン、横の糸はフェルミオン
少し専門的な話になるが、現代量子論の基礎である「場の量子論」を考える場合、自分自身との相互作用を計算すると無限大に発散してしまうという問題がある。
それを暫定的に解決する方法として、発散項を各種パラメータとしてくりこむ方法があり、考案者の一人である朝永振一郎先生はその業績でノーベル物理学賞を受賞している。
だが、一時しのぎではなく、根本的に無限大に発散する問題を解決できないだろうか?
無限大になる要因は粒子を「点」として扱うからであり、一次元に拡がって振動する「弦」だとすると発散しなくなる。こうして生まれたのが「弦理論」である。(考案者である湯川秀樹先生も南部陽一郎先生も、それぞれ別の業績ではあるがノーベル賞を受賞されている。)
弦理論のメリットは、その振動の仕方を各素粒子に当てはめれば、すべての素粒子を「一本の弦」で記述できることにある。さらに研究も進み、輪ゴムのように「閉じた弦」の振動を考えると、なんと重力(正確には重力子)を当てはめることも可能なのだ。
つまり、重力を記述する相対論と素粒子を記述する量子論が矛盾なく融合できるのである。
ただし、この段階において、弦理論はボソン(平たく言えば力を媒介する粒子:光子・重力子など)しか当てはめることができず、フェルミオン(物質を構成する粒子:クォーク・電子など)に応用することができなかった。
そこで、ウルトラCの秘技(笑)
詳細は省くが、「超空間」というボソンとフェルミオンを別座標軸に置く手法を取り入れ、さらに座標軸間の回転対称性(「超空間」の対称性だから「超対称性」)を導入すれば、ボソンもフェルミオンも同時に弦理論に組み込めるのだ。
「弦理論」を改良し、「超空間」の「超対称性」を導入する。
これが「超弦理論」の名前の由来である。まぁインパクトの強いこと(笑)
残り6次元の糸はカラビ-ヤウ空間
話はちょっと脱線するが、物理学の理論の多くは次元の数を選ばない。
力学のニュートン方程式も電磁気学のマクスウェル方程式も重力のアインシュタイン方程式も、どんな次元の空間であっても解を求めることができるのだ。
つまり、理論自体は「次元フリー」だが、現実の世界を証明するのにたまたま3次元空間を使っているのである。
では、超弦理論ではどうか?
結論からいくと、9次元空間(+時間軸で計10次元)しか数学的整合性がとれないのだ!!
このあたりの説明として、まず分かりやすい「弦理論」からいこう。
弦理論で3次元空間の物理量を計算すると、確率が負になったり、1より大きくなってしまう。具体的には、光子に弦理論をあてはめると、3次元では質量を持ってしまうのである。
そこで、弦の空間の次元数をDとして、光子全体のエネルギーを計算すると、
(光子の最低エネルギー) ∝ 2+(D-1)×(1+2+3+4+5+…) 注: (D-1)は光子の進行方向への振動を差し引いた、各次元での振動であり、(1+2+3+4+5+…)はその振動のモードを表す。例えば、「1」なら振動の基本モード。つまり、これら2つをかけたものが弦のゆれる方向すべての「量子ゆらぎのエネルギー」である。さらに、量子論の計算では、弦に振動が起きるときに必要なエネルギーはそのモードの量子ゆらぎのエネルギーの倍になる。これが第1項の「2」である。
いろいろ細かな説明を飛ばすと、要はこの「光子の最低エネルギー」がゼロにならないと、光子に質量が生まれてしまい、それが巡り巡って物理量の確率を負にさせたり1以上にさせたりしてしまうわけだ。
(1+2+3+4+5+…)とかあるし、この式はどうやってもゼロにならないんじゃない?
…そう思ったあなた、なんと複素数で計算(物理数学で複素解析と呼ばれる技法)すると、
(1+2+3+4+5+…)=-1/12
…そんなバカな!!…という驚異的な公式があるのだ!!
その数学的な厳密性等は割愛するが、この値を使うとあら不思議、Dが25次元のときに上記の式はゼロとなり、光子は質量を持たなくてすむのである。
つまり、弦理論では数学的整合性で空間の次元数が「25」と決まるのだ。
では超弦理論ではどうか?
「超空間」で(1+2+3+4+5+…)の要素をどう計算するかがミソだが、結論だけいうと「-1/4」になる。したがって、Dが9次元のときに光子は質量を持たなくてすむのである。
この「9」の空間次元に時間を足したのが、ちまたでいう「超弦理論は10次元」の答えなのだ。
ここで一つ疑問がでるだろう。
現実の世界は3次元だから、9から3を引いた余剰6次元はどうなってるの?
答えとして、よく例に使われるのが「点を虫眼鏡でみると円になるように、座標軸の線も細かくみれば円筒である。つまり、それぞれの座標軸に2次元の面が隠されており、それらによって余剰6次元がコンパクト化されている」という説明だ。
そうした例えだけでなく、実際に数学的にも3次元に内包された6次元が存在できるのであり、これを発見者にちなんで「カラビ-ヤウ空間」と呼ぶ。
一般的にカラビ-ヤウ空間にもいろいろ種類があり、この場合でもオイラー数(次元に関する多様体構造を表すトポロジー指標)にいくつか選択肢がある。(オイラー数で有名なのが、「面の数」-「辺の数」+「頂点の数」が3次元の穴なし立体では2になるといったものだ。実際に正四面体や正八面体で計算されたし。)
ここでなんとおどろき、オイラー数の絶対値が6のカラビ-ヤウ空間で素粒子の標準模型を拡張すると、クォークの世代数が3となることを示すこともできるのである。
まとめると、9次元空間の弦の振動が、オイラー数の絶対値が6のカラビ-ヤウ空間でコンパクト化され、現実の3次元空間での素粒子標準模型になっている。
これが超弦理論で予測される世界の描像なのだ。
織りなす「膜」はいつか万物の理論を明らかにするかもしれない
さて、弦そのものについて考えてみよう。
実は、開いた弦か閉じた弦か、右巻き・左巻きのパリティが破れているかどうかで、9次元の超弦理論は5つのパターンに分かれ、そのどれも前述の数学的整合性がとれているのだ。
このままでは、「超弦理論」は一意に決まらない。
そこで、超弦理論研究のリーダー的存在のエドワード・ウィッテンは、9次元にさらに1つ次元を追加して10次元とし、その1つの次元内のパラメータによってこれら5つの超弦理論が関係しているモデルを考案した。(ウィッテンはこの10次元の弦研究によってフィールズ賞を受賞している。)
つまり、追加した次元での広がりを考察して、「弦」を「膜」とみなす理論を超弦理論の進化形として提示したのである。
これは「M理論」と名付けられ、ウィッテン曰く、「このMの意味は、その人の好みによって、Mystery(謎)でも、Master(支配者)でも、Mother(母)でも構わない」としている。多くの研究者は、その形状からMembrane(膜)と解釈しており、ブログ主もそっち派だ。
ここまでくると、「次元なんて都合に良いように追加し続ければいいんじゃない?」という考えも出てくるだろう。
ところが、前述「超対称性」にボソンとフェルミオンの次元数を同一にする条件を課すと、数学的整合性のある最大の次元は「10」となるのだ。ここまで数値が一致してくると、美しさを超えてそら恐ろしさも感じてくる…。
このように、超弦理論(そしてM理論)は数学的矛盾なく量子論と相対論を統合する理論として発展してきたわけだが、もちろん弱点もある。
ちまたでよく言われるのが、「この10次元の空間をどのように実験で確かめるか?」ということだ。カール・ポパーが提示した科学・非科学の境界線に「反証可能性」があるが、実験で確かめれない理論を科学と呼べるのか?
現在の超弦理論(そしてM理論)の課題として、その理論の性質を現実の3次元空間で確かめる方法の模索がある。
実際、超弦理論の1タイプ(9次元・重力あり)と場の量子論(3次元・重力なし)を数学的に対応させた論文も発表されており、これにより、なんとブラックホール内部の性質を、その表面に張り付いた開いた弦で説明できるのだ。(ちなみに、ファン・マルダセナが発表したこの論文の引用件数は、この記事執筆時点で素粒子物理学分野では歴代1位である。すげぇ!!)
とはいっても、ブラックホールの観測・研究それ自体が課題山積みなのが現状である。
現実の空間での検証も含め、超弦理論を巡る戦いはまだまだ始まったばかりなのだ。
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ここで紹介したのは超弦理論の概要と基本のほんの一部である。
もっと知りたいと思ったら、専門書を片手に、「量子の海」へ漕ぎだそう。
目指せ!!新大理論発見(笑)!!これぞ賢者への道程!!
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