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教養を適応力に繋げる書籍 その② ~現代社会編~

その他
私が日々戦慄をもって名著から感じ取っている力とは、
「予知能力」ではなかったか。

新型コロナ禍に置かれた私たちの状況をあたかも写し取っているような
アルベール・カミュ「ペスト」

世界で猛威を振るいつつある全体主義的な政治手法を痛烈に撃つ
ジョージ・オーウェル「一九八四年」

対立意見を先鋭化し人々を分断に追い込むSNS社会の暗部を突く
ル・ボン「群衆心理」

……数十年から数百年前に書かれた名著が、
現代社会のありようを予言するかのように言い当てている。

~中略~

いや、
「予知能力」といいきってしまうとミスリードかもしれない。
予知しているかのように見えるのは、
先人たちが自らの直観を研ぎ澄まし、
人間や社会の本質をつかみとろうとあがき続けたからこそ、
獲得できた普遍性があるからだ。

そして、
人間の本質は、
時代が流れても全く変わっていない。
普遍性を獲得した名著は、
繰り返される人間の愚かさや過ち、蛮行、増悪のうねり、
社会の歪みを炙り出してくれるのだ。

(後述おすすめ書籍の「はじめに」より抜粋)

前回および今回の記事のテーマは、一風変えて、「教養を適応力につなげる書籍」。

てなわけで、後半戦の「現代社会編」である↓の書籍を紹介しよう。

著者は、NHK Eテレで毎週月曜日22時25分から放送している、この記事作成時点で放映9年目に突入する長寿番組「100分de名著」を担当するプロデューサーである。古今東西の名著を25分×4回で分かりやすく解説する教養番組だ。

本書は、
この「100分de名著」という番組の企画制作の舞台裏を赤裸々にさらすことで、
名著がもつ恐るべき力を炙り出そうという試みである。

なぜ番組でこの本を選んだのか、
なぜこの講師を抜擢したのか、
どうしてこの切り口から解説しようとしたのか…といったことを、
プロデューサーという立ち位置から包み隠さず明かすこと。

それによって、
名著という存在が、
私たちの人生にいかに豊かなものをもたらすか、
私たちの社会をよりよい方向へ導いていくのに、
どれだけ重要な力を秘めているのかを
浮き彫りにすることができると考えたからである。

そしてなんと驚き、前回の「逆境編」の著者もこの書籍内で取り上げられている名著の講師として、実際に番組出演されているのだ。(テーマは呉兢「貞観政要」。渋い!!)

さてさて、この記事ではそんな本書から、個人的に特に好きな2トピックを紹介しよう。

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「絶対的な他者」と向き合う:スタニスワフ・レム 「ソラリス」

惑星ソラリスの探査に赴いた科学者クリス・ケルヴィンは、観測ステーション内で科学者たちが自殺や鬱病に追い込まれている事実に直面。
何が起こっているのか調査に乗り出す。
その過程で、死者が次々に出現する現象に遭遇し、自らの狂気を疑うクリス。
その後の調査の結果、惑星ソラリスの海が一つの知的生命体であり、死者の実体化という現象は、海が人類の深層意識を探りコミュニケーションをとろうとする試みではないかという可能性に行き当たる。
果たして「ソラリスの海」は本当に知的生命体なのか?
そしてその目的とは?
さまざまな探査の試みが続く。

しかし、海からの応答はなく、不可解な自己運動を繰り返すだけ。
「ソラリスの海」は最後の最後まで謎に包まれたままの「絶対的他者」であり続ける。
にもかかわらず、この人間の理解を絶した他者を、小賢しい人間の知のレベルに閉じ込めることなく、徹底して「そのもの自体」として向き合おうとクリスが覚悟するところで物語は終わる。

世界は元来、もっともっと複雑で多様であるはずなのに、全てを「敵か味方か」という二色だけで色分けし、敵とみなしたものを徹底して排除するという思潮が世を覆っている。

テレビ, 新聞, 雑誌等々のメディアも、本来、多様な人々の意見を尊重し、マイノリティも含めて多様な権利を擁護し、権力に対して厳しいチェックを行うことが創設されて以来の使命であるはずだった。

にもかかわらず、全てを一つの意見で塗りつぶし、自分と意見を異にするものは全て敵とみなして徹底的に排撃し続けるといった極端なメディアも散見される世の中になった。

同じ考え方の人たちだけに囲まれて、複雑な世界を単純化し、異なるものを排除し続けることのほうが、安易で、居心地がよいと思う人が多いのかもしれない。

しかし、
人間の真の勇気とは、
自分とは全く異なる他者に身をさらし、
自分自身が変わっていくことも恐れず、
違和感や異質性に向き合い続けることではないか?

「ソラリス」の主人公、クリス・ケルヴィンが最後に示した姿勢こそ、
レムが最も訴えたかったメッセージであり、
我々が今、最も学ばなければならないことだと思えてならない。

「ソラリス」の著者、スタニスワフ・レムは、自分の祖国であるポーランドの国境が数度にわたって変更され、故郷の町の名前も次々に別の言語に変更されるさまを目にしてきた。

ロシアにおける社会主義革命、ナチスドイツによる全体主義、苛烈な民族差別、戦後の冷戦構造等々、世界史的な地殻変動の波にまともに洗われ、翻弄され続けてきた、二十世紀という激動の時代の生き証人である。

明日には我が故郷はなくなっているかもしれない。信じられる確かなものが何一つない世界の只中で生きたレムは、「絶対的な他者」を常に見つめ続けてきたのだ。

それを象徴する作品が「ソラリス」であり、その苦悩と葛藤が結晶しているからこそ、私たちが生きるこの現代社会を照らし出す力をもっているのだ。

怯むことなく堂々と老いよ!:ボーヴォワール 「老い」

「老い」は、いわば「老いのエンサイクロペディア」ともいえるほどの規模で、文明史から社会制度、心理学的調査、膨大な数の作家・芸術家・政治家・科学者らの評伝や告白録の分析等に至るまで、およそ"老い"に関わる現象や資料、研究成果を網羅的に検証した本だ。

ゲーテ曰く、「老齢はわれわれを不意に捉える」。
老いは他者から指摘されて初めて知らされるという。
つまり自分では受け入れがたいがゆえに、なかなか自覚ができないというわけだ。
ボーヴォワール自身も50歳のとき、女子学生が「ボーヴォワールってもうババアなのね!」と言うのをたまたま耳にして衝撃を受けたというエピソードを記している。

「人生百年時代」が到来し、100歳まで生きる人生に備えよ、といわれている現代。

平均寿命は、20年前と比べると3年延びた。65歳以上は人口の3割で、4人に1人は高齢者という社会を我々は生きている。これは人類が初めて遭遇する事態といえよう。

それなのに、それに対応できるような社会を全く築き得ていないのではないか。

「老い」についての言説の多くは、「アンチエイジング」「いつまでも若いままでいる方法」「美魔女」といった、あいかわらず「若さを至上価値と位置づけ、それをどこまで引き延ばせるか」を語る言葉で覆い尽くされている。

「美しさ」も「生産性」も失ってしまったら、人間は生きる価値などないんだといわんばかり。

加齢という現象は、
すべての人が中途障がい者になることだ。

中途障がい者と先天的障がい者の決定的な違いは、
前者には障がいがなかったときの記憶があることだという。
それゆえ、
中途障がい者になった人は、
他人からの差別を受ける前に自分自身を否定するというのだ。

昨日できたことが今日できなくなる自分に対して、
「ふがいない、情けないわたし」
と自分で自分を責め始めるのである。
この「自己差別」というのがあらゆる差別の中で最もきつい。

なぜここまで自分を責めてしまうのか?

それは、メディアや社会が老いを徹底的にネガティブなものとして語り、貶め続けるからだ。「若さ至上主義」のこの価値観は、物心ついたときから私たちの内面に老いの負の部分のみを刷り込んでいく。どんな若者であっても、いずれは一人残らず老いていくというのに。

そして、若き日にさんざん「ああはなりたくない」とディスり続けた老人に自分がなってしまったとき、「自己差別」に陥り、嘆き悲しむのだ。

圧倒的にネガティブな「老い」の側面を書き続けるボーヴォワール。
だがその果てに見えてくるものは意外と清々しい光景だ。

晩年のゲーテの講演の場面。
20分間も沈黙し、
衰えを何のてらいもなく聴衆にさらすゲーテ。
そしてその沈黙を尊敬の念からじっと見守る聴衆たち。
そのことを肯定も否定もせずに淡々と書くボーヴォワール。

そこには、
「老いの現実はこういうものだ。だからどうした? 何が悪い?」
というボーヴォワールの潔いまでの「老いへの向き合い方」がある。

そうした論を踏まえて、「老いとは文明が引き受けるべき課題だ」という確固たる立場を明らかにしたボーヴォワールは、老いてもなお尊厳のある生き方ができる社会とはどんな社会なのかを追求していく。

社会保障制度や施設の不十分さをばっさばっさとなで切りする痛快さ。その一方で、「残念ながら例外的な」成功例として、全個室で、自由に家族や友人と会え、文化的な空間も充実しているアメリカ・テキサス州の「ヴィクトリア・プラザ」の事例(記事作成時点で存続しているかは不明。悪しからず)を示すことで、あるべき社会保障制度の道筋を明確に見せる。

本書でも、「介護の社会化」や「施設主義から在宅志向へというシフト」といった案が述べられているが、ここでは割愛させていただく。

メッセージはシンプル。

年齢に抗わず、怯むことなく堂々と老いさらばえよう!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここで紹介したのは、おすすめ書籍のほんの一節ですらない(2回目(笑))

なにせ取り上げた名著が多種多彩なもんだから、それぞれ名著が持つ「適応」へのヒントは、是非一読して自分の中に落とし込んでいただきたい。

なお、過去に現代社会を評した名著シリーズも紹介したことがあるので、そちらも見ていただければ幸いである。(冒頭のル・ボン「群衆心理」も解説済み。…これって予知能力?(笑))

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