ダークマター(暗黒物質)・・・FFなどのRPGで頻繁にみられる、伝説級の「アイテム」
・・・いやいや、ちゃんとありますよ、現実の世界で。(「ある」と言いきるのは語弊があるが。)
そう、ダークマターとは、決して最強武器の合成に使われるだけのモノではないのだ(笑)
最近の20~30年間で、人類の宇宙に関する知識は飛躍的に増加した。その一つとして、宇宙にある物質・エネルギーのうち、約68%はダークエネルギーと呼ばれるものということが明らかになっている。宇宙は開闢以来膨張をつづけているが、その膨張速度は一定でなく増加していることが判明しており、加速膨張するためのエネルギーがダークエネルギーなのだ。
そして残り32%のうち、27%は今回の主役であるダークマターと呼ばれる未知の物質であり、我々の知る原子・分子などの通常の物質は宇宙に存在する全物質・エネルギーのわずか5%に過ぎないのである。
(シミュレーションによる上記モデルを、相対論での宇宙膨張を示す係数「Λ(ラムダ)」と後述「冷たい」ダークマター(Cold Dark Matter)とを併せて「ΛCDM」モデルと呼ぶ。)
大部分を占めるダークエネルギーは、その名前どおりにエネルギーの一種なのか、物質なのか、あるいは我々の想像をはるかに超えるものかなど、その正体への糸口は全く得られていない。観測データを収集・分析するなど、まだまだ研究の緒についたばかりである。(この記事でもダークエネルギーについては割愛する。悪しからず。)
一方、ダークマターは物質としての存在は確かで、具体的候補もあり、様々な探索が世界中で行われていて、明日にでも見つかるかもしれない。
この記事ではそんなダークマターの概要を紹介する。
参考は↓の書籍。興味をもったなら是非ご一読あれ。
ダークマターのポイントを3つ挙げるとすれば、
① ダークマターの証拠と性質:重力相互作用の観測結果
② かってのダークマター候補:ニュートリノ、マッチョ(MACHO)
③ 今のダークマター候補:WIMP、アクシオン
さてさて、これらをかいつまんで説明していこう。
混沌(カオス)
これまでにダークマターが存在していると思われる証拠は、ほとんどすべてが重力の相互作用を通じてえられているものだ。
銀河の運動から計算される銀河団の力学的質量は、光って見える(光学的に観測される)物質から推測される銀河団の質量よりはるかに多く、銀河の回転速度は目に見えない物質の存在を仮定して初めて説明がつく。
これらはすべて重力の相互作用によるものだ。そして、宇宙の大規模構造はダークマターなくしては今日のような形に創成されていない。
さて、ダークマターとは一体なんなのか?
我々の知っている通常の物質よりもはるかに大量にあるのに、その正体が全く不明であるというのも奇妙な話だ。
これまでの状況証拠から、ダークマターの占める質量は宇宙の全物質・エネルギーの27%、すなわち通常の物質の5~6倍であることがわかっている。そして、これまでの観測・考察により、ダークマターの性質について以下のようなことが一般的になっているのだ。
・安定である ・電荷を持たない、中性の物質である ・我々の知っている原子・分子などの通常物質ではない ・重力相互作用をする ・重力以外での通常物質との相互作用は、弱いか、あるいはなくてもよい ・飛び交うスピードは遅い (光速に比べて十分に遅い必要がある。これを「冷たい」ダークマターと呼ぶ。)
ただし、例えば複数種類が存在するなどした場合、これら性質を満たさないものもダークマターに含まれるため、多様なダークマターのモデルが考えられている。
暗闇の雲
さて、前述の性質を満たすダークマターとして、どのようなものが考えられるか?
ここではかっての候補たちを紹介しよう。
現在、これらはダークマターではないとされている。
・ニュートリノ: まだニュートリノの質量がよくわかっていなかった頃は、ニュートリノはダークマターの重要な候補だった。ただし、ここでのニュートリノは、太陽ニュートリノではなく、超新星ニュートリノでもなく、宇宙の初期にできたニュートリノだ。 この説は、カミオカンデ実験グループがニュートリノ振動現象を発見したことで可能性が消えた。ニュートリノ振動によりニュートリノに質量があることが判明したが、ダークマターであるために必要な質量の150分の1程度しかなかったのだ。 また、宇宙論の議論で上記「冷たい」ダークマターが優勢になるにつれ、相対論的に「熱い」ニュートリノにはさらなる逆風が吹き、ダークマターの議論から外れていくことになった。
・マッチョ(MACHO):MAssive Compact Halo Object 惑星や褐色矮星(ガスが集まって塊にはなったが、核融合の火がつかなかった、恒星になれなかった星)などの、光ってはいない天体のこと。小さく、しかも太陽からの距離が離れていれば、反射光を見るのは困難で、「見えない」天体となる。銀河は、その光り輝く渦巻きの外側を、銀河ハローと呼ばれる薄い星間物質やこのマッチョに取り囲まれている。 これらマッチョも一時期ダークマターの候補と考えられていたが、重力レンズによる観測結果などから、銀河の回転速度などを説明するには質量が少なすぎることがわかり、候補から外れていった。
これら以外にも、原子ブラックホール(宇宙の初期にできたブラックホール)もダークマターの候補して考えられたこともあったが、宇宙背景放射の歪みなどの観測結果から、質量領域に制限がついており、少なくとも現在の主要なダークマター候補から外されている。
永遠の闇
現在の主たるダークマター候補になにがあるのかというと、弱い相互作用をする粒子(WIMP)とアクシオン(Axion)と呼ばれる素粒子が挙げられる。
・WIMP:Weakly Interacting Massive Particle ニュートリノのように中性で弱い相互作用をするけれども、微小な質量を持つのではなく、陽子の100倍~1000倍の重さがあると考えられ、現在までに知られている素粒子のカテゴリーにはない新しい素粒子。 弱い相互作用の典型的なスケールとされる200GeV/c2を質量とすると、宇宙初期のダークマター誕生にまつわる話から、現存するダークマターの量、超弦理論などで「超空間」の「超対称性」から予測される未知の素粒子の存在に至るまで、すべてが無理なく説明できる。まぁすごい!! 超対称性粒子のなかで、光子のペアである「フォティーノ」、Zボソンのペアである「ジーノ」、ヒッグス粒子のペアである「ヒグシーノ」が混ざった「ニュートラリーノ」がダークマターの候補として有望視されている。 (注:ニュートリノの超対称性ペアは「スニュートリノ」である。ニュートラリーノはこれら中性電荷の超対称フェルミオンの総称。ややこしい(笑))
・アクシオン: 少し専門的な話になるが、強い相互作用のCP対称性が破れないことを説明するために理論的に存在が予言される新しい素粒子。 現在の標準模型では、強い力のCP対称性は破れても破れなくても問題ない。しかし、観測でCP対称性は保存されており、CP対称性が破れないような理論の枠組みが必要である。アクシオンはその新しい理論で導入された。これとまったく逆の事態が、弱い力のCP対称性の破れを説明するために導入されたヒッグス粒子である。 WIMPがなかなか見つからないので、最近ではダークマターの最有力候補。
1970年代から始まったダークマターの探索実験は、この2つの候補に対するものが主力だった。特にWIMPは検出しやすいと考えられ、研究が精力的に進められてきた。
しかし、これまで様々な方法を使った観測や探索実験でも、万人が確実であると納得できるような信号は(この記事作成時点で)未だ見つけられていない。
もちろん、完全に可能性が排除されたわけではないが、特にWIMPの可能性が徐々に少なくなってきている。(「ニュートリノの床」と呼ばれる、WIMPの観測精度限界に徐々に近づいているのだ。興味を持たれたら、参考書籍①を読まれたし。)
そのような流れを受け、WIMP以外の可能性を多くの研究者が考え始めている。もちろん、アクシオンの探索にも一層の関心が集まっている。また、他のダークマターの候補も多く考えられ、その探索方法も提案されている。
ただし、理論家の数だけダークマターがあると言われるように、多種多様のものが乱立気味なのが現状だ。(参考書籍①では上記以外にも、アクシオン様粒子、ステライルニュートリノ、ダークフォトンなどのダークマター候補生を挙げている。)
ダークマターの探索は一種の戦国時代に突入したのかもしれない。そして、ある意味切迫してきている。もう少し頑張れば見えるのか、あるいは重力以外で見つからないのがダークマターの本質的な性質なのか、決着をつけねばなるまい。
こうした最近の状況を背景に、これまでのアイデアにとらわれない、新しい「見る」ための方法が現在世界中でいくつも提案されているのだ。
ダークマターはひょっとしたら明日にでも見つかるかもしれない。あるいは、様々な混戦を経て10年後に見つかるかもしれない。ひょっとすると、どんな検出器を使っても見えないかもしれない。
見つかれば大発見だが、たとえ重力以外では「見えない」ということがわかったとしても、宇宙と素粒子解明への大きなステップがえられるだろう。
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ここで紹介したのはダークマターの概要と研究のほんの一部である。
もっと知りたいと思ったら、専門書を読みふけって、「知識の宇宙」へ探索に出かけよう。
目指せ!!知的好奇心生命体(笑)!!これぞ賢者への道程!!
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