以前、「元素について一から学ぶ」というテーマで元素の基礎知識を解説したことがある。
そこで紹介したおすすめ書籍の第2版がこの度、情報をアップデートして刊行! やったぜ♪
さて、いつもの流れで↑の書籍を解説したいところだが、とはいっても元素の基本的なことは前回で概ね話しているではないか。う~ん……どうしよう?
そんなわけで、本記事ではおすすめ書籍ver2を参考に、個人的に好きな元素を語ろう。
なお、チョイスした元素および情報は、天然に比較的豊富に存在する元素の中で最も原子番号の大きい、92U(ウラン)までとした。それ以上の超ウラン元素たち(Uの崩壊の過程で生じる93Np(ネプツニウム)と94Pu(プルトニウム)を除く)は人工的に創られた新元素であり、まだ性質もよく分かっていないものが多いのだ。悪しからず。
74W(タングステン)
1781年にスウェーデンのシェーレは、当時はタングステン(tungsten;スウェーデン語で「重い石」)、現在では灰重石と呼ばれている鉱石(主成分CaWO4)から新しい元素の酸化物を単離し、タングステンが元素名として用いられるようになった。
一方、昔から、スズを精錬する際、スズ鉱石とタングステンを含む鉱石を混ぜると、スズと化合して複雑な化合物ができることが知られていた。この「スズを狼のようにむさぼり食べる」鉱石をwolframite(ウォルフラマイト)と呼んでいた。FFなどのRPGで、鉄巨人系の上位種として出てくるアイツである(笑)。
1783年にスペインのデ・エルヤル兄弟が、鉄マンガン重石から初めて金属を単離し、この元素名をウォルフラム(wolfram)と名づけ、この名称がかなり広く用いられていた。このため、現在では元素名にタングステンが用いられているが、元素記号にはwolframのWが用いられている。また、ドイツでは今でもwolframと呼んでいる。
さてさて、そんなタングステンの有名な性質と言えばズバリ、すべての金属のうちで最も融点が高い(3407℃)ことだ。沸点(5555℃)も次の原子である75Re(レニウム)に次いで2番目に高い。すなわち蒸気圧も低く、細い線に加工できるので、白熱電球のフィラメントに用いられている。また熱により膨張する程度がホウ素ガラスとほぼ同じであるため、ガラスに封入する細線としても用いられている。
鉄鋼や炭素、その他金属と化合することによって、タングステンは物性が安定した超硬合金の材料に使われる。
酸化タングステン(WO3)には電圧をかけると透明から青色に変化する性質があり、透明度を調整できる窓ガラスに応用されている。また、酸化タングステンの光触媒作用を利用して、室内光でも効果を発揮する抗菌コートが開発されている。
こうした工業的な利用価値と希少元素(レアメタル)であることから、タングステンは先端科学技術を支える資源として、日本では国家備蓄7鉱種とされている。
白金族元素:44Ru、45Rh、46Pd、76Os、77Ir、78Pt
掟破りの集団選出(笑) 許されたし。
ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、そして白金の6元素は物理化学的性質が互いに似ており、天然にもよく見出されるために、総称して白金族元素と呼ばれる。まぁ要は3×2の長方形みたいな位置関係なので周期表を確認されたし。
そんな白金族の中で、オスミウムとイリジウムは比重が約22.6g/cm3で、最も重い物質だ。
また、オスミウムは、タングステン、レニウムに次いで3番目に融点が高く、高い融点と硬度を利用して電気接点に用いられている。
イリジウムはあらゆる金属の中で最も腐食されにくく、熱王水にすら容易に溶けない。しかし、硬くてもろいのできわめて加工しにくく、単独での用途は耐熱・耐薬品性るつぼ等に限られる。なお、放射性同位体192Irはγ線源として子宮頸がんなどの放射線治療で用いられ、ブログ主の業務的にもたいへんお世話になっている(笑)
そんなオスミウムとイリジウムだが、合金の状態で白金鉱として存在し、イリドスミンと呼ばれ、かの宮沢賢治にもゆかりがあるとかなんとか。この合金は、ほとんどの酸・アルカリに侵されず、耐久性も高いので、万年筆のペン先などに用いられている。
オスミウムは、四酸化オスミウム(OsO4;毒性がきわめて強い)の強い臭いから、ギリシャ語のosme(臭い)にちなんで名づけられた。一方、イリジウムは、その塩類が虹のように多彩な色を示すことから、ギリシャ神話の虹の女神Irisにちなんで命名された。
同じ白金族元素で先端科学技術を支える資源と考えられており、ともに地殻中の存在量が遷移元素の中ではラジウムに次いで希少でありながら、なんだこの差は(笑)
磁気モーメントシリーズ:60Nd、62Sm、64Gd
掟を破り続けるブログ主(笑) 今度の集団は性質すらバラバラだ(笑)
希土類元素は、鉱石やミッシュメタル(希土類元素混合物合金)からの単離の歴史が長く複雑であるため、その歴史や命名についてはここでは割愛する。詳細は書籍を参考されたし。
そんな中で、ネオジムとサマリウムとガドリニウムは、4f軌道の状態から、高い磁気モーメントを活かした用途が興味深い。(電子軌道と磁気モーメントについても、量子論や固体物理学の参考書に丸投げしちゃおう(笑))
ネオジムの最も重要な用途は、現時点で最強の永久磁石として名高い、ネオジム-鉄-ボロン磁石(Nd2Fe14B)だ。これは1982年に我らが日本で発明され、それまで用いられてきたフェライト磁石(いわゆる酸化鉄磁石)の10倍以上のパワーをもつ。強力な磁石が現代の電子機器などの分野でどれだけ幅広く活躍しているかは、ここで改めて語るまでもないだろう。
ネオジムは磁気モーメントが特定の方向をもちやすい性質があり、鉄と混ぜると、ネオジムの磁気方向のみならず鉄の磁気方向までが同じ方向に固定され、全体として大きく強い磁石となる。磁石の強さは結晶の構造と電子の相互作用に依存する。原子半径の小さいホウ素はネオジム原子と鉄原子の距離を調節し、両原子の相互作用を最大にするのだ。
ネオジム磁石が世に出るまでは、サマリウム系磁石(SmCo5やSm2Co17)が最強の磁石として用いられていた。磁石の仕組みは上のネオジム磁石と同様で、希土類元素と遷移金属元素の組み合わせにより、磁気の方向がそろいやすい結晶構造になることで強い磁石となる。
ネオジム磁石は鉄を主成分とするので錆びやすいこと、高温では磁石の性質が低下することから、サマリウム系磁石もスピーカーやマイクロフォンに依然として使用されている。さらには、ネオジム磁石を超えるサマリウム系磁石(Sm2Fe17N2-3)も開発されている。
7個の4f軌道それぞれに1個ずつ電子が入っており、希土類元素の中で最大数の不対電子を有しているのがガドリニウムだ。この不対電子に依存して磁気モーメントが最大になるため、この特性を活かした利用がやはり主となる。
磁気モーメントのエントロピー操作による冷却(断熱消磁法:1000分の1K以下の超低温まで達することができる)や光磁気記録用ディスクとしての用途の他、全元素中で最も熱中性子を吸収する性質から、原子炉の制御棒という変わり種の応用なんかもある。
個人的に一番お世話になっている用途は、MRI検査における造影剤(画像のコントラストを増強させ、病気の診断に役立てる)だろう。しかし、多量のガドリニウム投与によって腎障害や皮膚症状が出る可能性があるため、腎機能が低下している患者さんに対しては使用に注意が必要である。
ふと思うこととしては、原理上ガドリニウムを用いた方が最強の磁石を開発できそうなもんだが、そのあたりは固体物性や材料物性的な要素が絡んでるんだろうなぁと。物性に詳しい方がいれば、教えていただければ幸い。
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最後にもう一つだけ元素の話題をば。
ブログ主の表記名である「鉄」については、情報量が多すぎてここでは語れません(笑)
一つだけ挙げるとすれば……鉄は全ての元素の中で(ニッケルの特殊な状態を除いて)最も原子核が安定している。そのため、恒星内部の核融合の最終到達地は「鉄」なのだ。…つまり、ブログ主は最強なのである(笑)
元素って本当に奥深いし、まだまだ語りきれないと感じる今日この頃。
もっと知りたいと思ったら、専門書を詰め込んで、「理学の頂」の山登りに出かけよう。
目指せ!!理学の友人(笑)!!これぞ賢者への道程!!
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