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無限とカオスに思いを馳せる その②

数学

前記事では、無限とカオスという近代数学の破壊者のうち、無限の方を取り上げた。

無限とカオスに思いを馳せる その①
「無限」と聞いて、いったいどんな数学の言葉が浮かんでくるだろうか?アキレスと亀…超準解析…連続体仮説…カントー...

それでは第二幕:「複雑系入門 カオス、フラクタルから生命の謎まで」

最初に衝撃の事実を述べよう。 ↑の書籍の著者は人文学者・小説家である!!

内容としては、前回同様に挿絵をふんだんに使いつつ、カオス・フラクタルをこれでもかってくらい分かりやすく紹介してくれている。本職顔負け・ブログ主ボロ負けったらない(笑)

そしてそれ以上に、なんというか…ところどころの表現が非常に味わい深いのだ。

さすが本職♪ 安心なされい、複雑な式はいっさい登場しない…今度こそ(笑)

今回はそんな本書の中から、複雑系を捉えるのに重要なポイントを取り上げていこう。

(ここで注意事項。本記事ではロジスティック写像やコッホ曲線、マンデルブロ集合などの個別トピックは取り上げなかった。本書の挿絵にあるような、溜息がでるほどの美しいグラフを文字だけでは表現できなかったのが大きい…。そのあたりは是非本書を手に取って、見入って欲しい。悪しからず。)

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近代のパラダイム 要素還元主義

現象を各要素に分解し、攪乱要素を取り除いてより純粋なかたちで観察し、その本質をえぐり出す。高校の物理で、「摩擦のない理想的な斜面とする」とやるのと同じ要領だ。

近代の物理学はこの方法で大成功を収めた。

物質の構成要素である分子から原子を超え、それを構成する素粒子を発見し、その運動を解明した。宇宙の究極の謎を明らかにするまであと一歩だとも言われるほどだった。

物理学の成功は、他分野にも大きな影響を及ぼした。自然科学だけでなく、社会・人文科学までもが、分析して純粋な形で本質をえぐり出すという方法論を採用するようになった。

この方法論、つまり現実を可能なかぎり小さく、そして単純な断片に切り刻んでいく方法を、「還元論」あるいは「要素還元主義」と呼んでいる。

還元論は大成功を収め、人類の近代を切り開いた。その意味で、還元論は「近代のパラダイム」といっても差し支えないだろう。

バタフライ効果 近代のパラダイムを射る第一の矢

詳細は割愛するが、初期条件の微小な変化が結果に大きな差をもたらすこと、つまり初期条件への鋭敏性のことを、現在では「バタフライ効果」と呼んでいる。

そして、このバタフライ効果を引き起こす力学系は、「カオス」と名づけられた。

バタフライ効果は、当時の常識、近代のパラダイムを根底から揺るがす衝撃だった。

デカルトが生物を精密な機械であると考えたように、近代のパラダイムによる世界観は、いわば時計仕掛けの世界だった。宇宙はニュートンの法則にしたがって永遠に整然と運動し続ける。生物も、社会も、時計仕掛けのように整然とした法則にしたがっている。それらが突拍子もない運動をしたとしても、そう思うのは人類が未だその法則を知らないからであって、その本質を見極めれば全てを理解し、予測することができると考えていた。

時計仕掛けの宇宙に、バタフライ効果などがあっては困るのである。それが決定論的な法則に従う体系の中でのカオスならなおさらだ。

バタフライ効果を生むのは確率的な現象でない。微分方程式によって次の状態が完全に決定されているにもかかわらず、カオスが生まれるのである。

カオスを作り出すのに、神はサイコロを振る必要さえないというのだ。

はじめは、カオスが時計仕掛けの宇宙の平安を乱すといっても、そういう病的な現象は例外なのではないか、という雰囲気があった。気象モデルや三体問題など、複雑な微分方程式系で導かれる力学的に限定された話であり、この宇宙の多くの現象は近代のパラダイムで理解できるのではないか、という立場だ。

しかし調べていくと、カオスはいたるところに顔を出すということがわかってきた。

フラクタル 近代のパラダイムを崩す第二の矢

またまた詳細を省いて申し訳ナッシングだが、部分が全体と相似になっている図形を「フラクタル」と呼ぶ。そして、現在ではフラクタルという概念はもっと広く捉えられている。

定義のやり方はいろいろあるが、簡単に言えばフラクタルとは「整数でない次元を持つ図形」と考えることができるだろう。(例:コッホ曲線の次元=1.262、シェルピンスキーの三角形=1.58、メンガーのスポンジ=2.73、…etc.)

現象をどんどん細かく分解していけばやがては単純な要素が残る、というのが人間の常識だ。分析を進め、夾雑物を取り除き、本質をえぐり出すという近代のパラダイムもこの常識の上に成立している。

フラクタルの発見は、近代のパラダイムを射る第二の矢となった。還元論では、いくら拡大しても複雑さが完璧に維持されるフラクタルを解明することはできないのだ。

カオスの縁 創造の領域

セル・オートマトンでのライフゲームをご存知だろうか?

無限に広がる方眼(セル)上で、黒と白の2つの状態が、周囲8つのセルの白黒の状態により決定されるというものだ。

ライフゲーム - Wikipedia

こうしたライフゲームにおいて、中央のセルの運命が近傍のセルの状態によって決定される規則・振る舞いを、スティーブン・ウルフラムは4つにのクラスに類別した。

クラスⅠ:
最初にどのように黒と白のセルが配置されていても、次の時刻かさらに次の時刻にはすべて白になってしまう。
死の世界というわけだ。

クラスⅡ:
しばらく待っていると、動きのない黒のセルの塊と、周期的な振動をする物体だけになってしまう。
固定物体と振動子だけが残る状態だ。
これも力学的に興味を引く現象でない。

クラスⅢ:
クラスⅡとは逆に、手をつけることができないほど過激な運動を繰り返す。
予測できるようなことは何もなく、何か構造物のようなものができてもすぐに崩壊してしまう。
カオスになってしまうのだ。

クラスⅣ:
クラスⅡの秩序(コスモス)とクラスⅢの混沌(カオス)とはまったく違うもの。
クラスⅢのように激しい活動が展開されるが、そこには一貫性がある。
構造物が増殖し、成長していくのだ。
また、分裂と合体を繰り返して、さらに精妙な構造物ができあがったりもする。

こうしたクラスと規則は、各セルが次の時刻で生き残る確率のパラメータ(λ)によって決定される。λの値が臨界値より小さければ、クラスⅠやⅡの秩序状態になり、臨界値を超えるとクラスⅢの混沌状態になる。

そして、λが臨界値付近のごく狭い範囲であれば、クラスⅣという芸術的ともいえる創造の領域となるのだ。

これはまさに、氷が水にかわるときのような相転移である。氷が水になる、あるいは水が氷になる相転移の瞬間、あの雪の結晶のような芸術的ともいえる創造の領域が生まれることはよく知られている。

<力学系一般へのアナロジー>
クラスⅠとⅡ ⇔ クラスⅣ ⇔ クラスⅢ
固体(氷) ⇔ 相転移 ⇔ 流体(水)
秩序(コスモス) ⇔ 複雑性 ⇔ 混沌(カオス)

このクラスⅣ=相転移=複雑性の瞬間は、現在「カオスの縁」と呼ばれている。

複雑系 エルゴート的な宇宙を超えて

遺伝子ネットワークの調和は、まさにカオスの縁で起こった創発である。

遺伝子間の連携が密であれば、遺伝子ネットワークはやたらと興奮して、構造物のようなものができてもすぐに壊れてしまうカオスな状態になる。
また、遺伝子間の連携が疎であれば、面白みのない固定的な秩序状態になる。
その中間、カオスと秩序の状態の間に、芸術的ともいえる創造の瞬間があるのだ。
それがカオスの縁なのである。
原始のスープ(原子地球での、生物の材料となる有機分子のスープ)の中で生成されるA, B, C, …などの分子は、ランダムグラフの点と考えられる。
そして、それらの反応がランダムグラフの線だ。
A, B, C, …などの分子が増えていくと、明らかに反応の種類は増えていく。
反応の種類の増え方は、分子の増え方よりも速いのだ。
つまり、ランダムグラフの中で点が増えていけば、線はさらに増えていく。
とすれば早晩、相転移が起こるはずだ。
カオスの縁である。
そこに創発が起こり、巨大な自己触媒ネットワークが生まれるのだ。

百年河清を俟つように、巨大なDNAやRNAが生まれるのを待つ必要はない。
原始のスープの中の分子たちの相互作用が、カオスの縁で創発を起こすのだ。
この自己触媒ネットワークが新しい分子を生み出していくさまは、「生きている」と表現することができるはずだ。
神が命を吹き込んだのではない。
魔法の種は、カオスの縁であり、創発なのだ。

細胞はさまざまな分子や細胞小器官が並行的に作用するネットワークであり、生物圏もまた、さまざまな種の生物が並行的に作用するネットワークだ。

このように、多くの要素が並行的に作用するネットワークを「複雑系」という。

複雑系では、全ての要素が他の全ての要素に影響を与え、同時に他の全ての要素から影響を受けている。したがって、その環境の中にあるすべては、本質的に固定されていない。現状を維持するためにも、活動を続けなければならない。

「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王が言うとおり、
同じ場所にいたいと思ったら、
精一杯走り続けなければならないのである。

また、複雑系には中心が存在しない。コントロールタワーのようなものはないのだ。

では、複雑系を支配する法則はどのようなものなのだろうか。

まず、複雑系の要素はカオスの縁に向かって進化していく。そして、適応地形の構造をうまく組み換え、どんな適応地形においても「良い」選択を得る方法を獲得する。その後、複雑系は相空間の隣接領域を持続的に拡大していく。

もちろん、これらの法則はまだ予想にすぎない。

可能な事柄が全て現実となりうる状態を、物理学者は「エルゴート的」と呼ぶ。物理学はエルゴート的な世界だけを追求してきた。この宇宙は、原子に関してはほぼエルゴート的だと言える。しかし、生命を形づくる複雑な分子に関しては非エルゴート的なのだ。

近代のパラダイムはエルゴート的宇宙で大成功を収めた。ニュートンの運動方程式、アインシュタインの相対性理論、ボーアの量子論は、この宇宙のほとんど全てを解明したと思われた。しかし、それによって複雑系=非エルゴート的宇宙を解明することはできない。

複雑系の科学は、ニュートン・アインシュタイン・ボーアを超えていく。そして、複雑系の科学はまだ始まったばかりなのだ。

複雑系を表現する数学も未だ存在しない。常にカオスの縁に向かって進化していき、事前言い当て不可能な方向へと隣接可能領域を拡大していく。そんな複雑系の姿を表現する数学が生まれるのも、そう遠い未来ではないかもしれない。

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ここで紹介したのはおすすめ書籍で語られているトピックのほんの一部である。

もっと知りたいと思ったら、専門書を目印に、「数学の森」の奥深くに進んでみよう。

眩暈を覚えよう!!カオスとフラクタルのネットワークに!!これぞ賢者への道程!!

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