我々は生まれつき、物事のしくみを理解したいという好奇心を持っている。 次に何が起こるのか予想するために、身の回りに何か傾向やパターンが見られないかを探している。 その傾向やパターンを数によって表すことで、人類は徐々に数学を発展させた。 当然ながら、数学を用いれば自然界のしくみを無理のない形で記述できる。 それどころか、この宇宙のしくみをもっとも根本的なレベルで記述することを目指す物理学は、数学という大黒柱で支えられている。 自然法則の理解が進めば進むほど、高度な数学が必要となる。 そのため、現代物理学は初心者には歯が立たないといわれている。 しかし、そのように認識している人が見過ごしていることがある。 実は物理法則は単純であるし、物理的現実のエッセンスを表現した数学は、なんとも美しいということだ。 (参考書籍②はしがきより)
さてさて、そんな自然法則の中核をなす考え方の多くは単純な数学のパズルで説明できる、と聞いたらどう思われるだろうか?
「嘘つけ、どうせ物理学や数学の幅広い予備知識が必要なんだろ!!」
…なんて考えた方には朗報(笑)
本記事では、そうした狙いをもとに↓の参考書籍から、単純だが解くのが楽しく、物理的現実の深淵な意味も理解させてくれる、面白い数学パズルをピックアップして紹介しよう。
なお、以前にも有名なモンティ・ホール問題などの面白い論理学の問題を取り上げたことがある。「数学パズル」とはやや毛色が違うが、読んでいただければ幸い。
直感に反する数学パズル:赤道のまわりのベルトを延ばしたら…
問: 地球の赤道のまわりに、巨大なベルトをきつく巻いたとしよう。 そのベルトの長さを1m延ばす。 すると、ベルトは地表からどれだけ浮き上がるか? 下に紙は通せるだろうか? ネズミなら? 高層ビルなら?
いっさい数学に頼らずに当てずっぽうで考えると、巨大な地球に対してたった1mしか延ばさないのだから、ほんの少ししか浮き上がらず、紙ですら通せないという答えになるだろう。
直感に従うとそのような予想になるが、実は間違っている。
地球の半径をRとし、ベルトを地上から一様に持ち上げて1m延ばせば、円周は2πR+1。
したがって、円周2πR+1が作る円の半径は、全体を2πで割って、
(2πR+1) / 2π = R+1/2π ≒ R+0.16
つまり、Rよりも16cmほど大きいのだ。
とてつもなく大きいわけではないが、たいていの人の予想を踏まえると驚くほど大きい値だ。紙はおろか、ネズミや猫でもその下を通れるだろう。
さらに驚かされるのは、ベルトを全方向に一様に持ち上げるのではなく、1ヵ所だけを引っ張り上げる場合である。その場合、どれだけ高くまで引っ張り上げられるだろうか?
当てずっぽうで予想すると、ベルトを延ばした長さが1mなのだから、その部分を2つ折りにして50cmくらいは上げられそうだ。
だが、実はもっとずっと高く引っ張り上げられる。
その高さを実際に計算するには微積分が少々必要だ。「数学の幅広い予備知識はいらない」とか言ってながら、これである。サーセン(笑)
導出は参考書籍②を見ていただきたいが、式の結果に対して実際に地球の半径を代入すると、なんと引っ張り上げられるベルトの高さは121m!!
すごい!! 下に高層ビルを通せてしまう。ロンドンのビッグベンでもやすやすと通せるし、自由の女神も土台とトーチを含めて通せる。まさに直感に反する答えだ。
対称性を感じる数学パズル:暗闇の中のコイン
問: 真っ暗な部屋に、コインが100枚散らばっている。 90枚は表が上で、10枚は裏が上だ。 だが、触ったりしても、表か裏かは判別できない。 コインを2つの山に分けて、それぞれの裏の枚数が等しくなるようにしたい。 どのようにすればいいだろうか?
少しズルくさいが、2つの山が同じ大きさでなくてもいいことに注目しよう。
どれでもいいからコインを10枚選んで1つの山をつくり、その10枚のコインを全てひっくり返す。すると、その山に含まれる裏向きのコインの枚数は、残りの90枚のコインの山に含まれる裏向きのコインの枚数と等しくなる。
難しそうに聞こえるのにこんなに簡単に答えられて、驚かれたかもしれない。
これで合っていることを確かめるために、コイン10枚でできた山に含まれる裏向きのコインの枚数をxとしよう。最初は裏向きのコインが合計で10枚あったのだから、コイン90枚の山の中には、裏向きのコインが10-x枚入っているはずだ。
ここで、小さいほうの山に含まれる10枚のコインを全てひっくり返すと、裏だったx枚のコインが表になり、表だった10-x枚のコインが裏になる。すると、裏向きのコインの枚数が、大きいほうの山と一致する。
したがって、この答えは確かに正しいし、初歩的な算数しか使っていないが、何かこう対称性の深淵を感じさせてくれるのだ。
双対性を理解する数学パズル:棒の上のアリ
問: 長さ1mの棒があって、時刻 t=0 にその上に20匹のアリを一列に置く。 棒のどこに置いてもいいし、最初に左右どちらに歩かせてもいい。 アリは分速1mで歩いていく。 2匹のアリが衝突すると、どちらも方向転換し、再び同じ速さで歩き始める。 (アリ同士がすれ違ったり追い越したりはできないものとする。) 棒の端に来たアリは落ちてしまう。 そこで問題。 最後のアリが棒から落ちるまでにかかる時間を最大限長くするには、 最初にどこにアリを置いて、左右どちらに歩かせればいいか?
衝突したアリがそれぞれ方向転換すると考える代わりに、アリの双対性を加味して、衝突したときに中身が入れ替わって同じ方向に歩き続けると考えればいい。
一匹一匹のアリを区別しないのであれば、このようにとらえてもアリの位置は変化しない。すると衝突を完全に無視することができる。
したがって、最後のアリが棒から落ちるまでの時間を最大にするには、1匹だけでよいので棒のどちらかの端にアリを置いて、反対方向に歩かせればよい。
他のアリはどこに置いてもかまわない。端からスタートしたアリが反対の端に落ちるまでには1分かかるので、これが最大限の時間である。
複雑な問題をそれと等価な、つまり双対的なもっと易しい問題に置き換える。このパズルはそんな双対性の素晴らしさを理解させてくれるのだ。
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最後に、参考書籍②の終章の一節を取り上げて、この記事を締めくくろう。
双対性は今日の物理学において重要性が高まり続けているテーマであるし、ここまで説明してきた事柄をまとめ上げるうえでも重要な概念である。 自然界に現れる双対性の研究から得られる教訓、それは、物理法則を考える際には、我々は多様な考え方に心を開かなければならないということだ。 一つの見方だけにこだわって、他の見方を無視すべきではない。 物事の見方は何通りもあるものだ。 どれもが等しく正当で、それぞれ別々の恩恵や閃きを与えてくれるかもしれない。 場合によっては、優れた見方から優れた答えが得られることもある。 それが、本書から浮かび上がってきたもっとも重要な教訓である。
もっと物理と数学の結びつきを味わいたかったら、参考書籍も含めて多くの本に触れよう。
正確な道筋はわからないが、そんなもんは知らない(笑) とても実り多い道は開かれている。
なんとスリリングで楽しいことか!!これぞ賢者への道程!!
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