さて、ミレニアム懸賞問題のラストを飾るのはヤン-ミルズの問題。
素粒子物理学の標準モデルに絡む内容のため、今回は掟破りの前後編でお届け。
参考は例のごとく↓の書籍。賢者を目指すブログ主の黙示録。
「ミレニアム懸賞問題って何?」という人は下記記事も参照されたし。
素粒子物理学の標準モデル
電弱理論(電磁気学と弱い核力の理論)と量子色力学(強い核力を説明するための理論)を合わせると、素粒子物理学の標準モデルになる。(なお、自然界には4つの力が働いていると考えられており、それぞれ「電磁気力」「強い核力」「弱い核力」「重力」である。)
1970年代以来、この枠組みは物質を構成する粒子に対する最善の説明となっている。
とはいえ、重大な問題が残ったままだ。
Ⅰ 標準モデル自体も完全な理論ではない。現在でも説明のつかない定数がいくつかある。これらを自然界において観測し、理論に書き込まなくてはならない。
Ⅱ 電弱理論は、弱い核力と電磁気力は別々のものではなく、同じ力の異なる側面であることを示している。しかし、強い核力は別のものとして扱われている。多くの物理学者は、3つの力すべてがまとまり、大統一理論になるはずだと考えている。
Ⅲ 重力の説明が完全に抜けている。現代物理学の主目的は、万物の理論と呼ばれる、4つの力すべてのモデルを構築することだ。
Ⅳ この枠組みを支える数学が、じつのところあまり理解されていない。目下の問題はヤン-ミルズの問題だ。
ゲージ群
ヘルマン・ワイルは、電磁気学などの「場」を説明しようとするときに、対称変換群が重要な役割を果たすことに気づいた。
ここで必要となる「ゲージ群」は、時空の対称変換群とは違い、代数学から生じるものだ。
量子力学において、粒子は確率分布|ψ|2を持つ波動関数ψによって説明される。
ここで、aを|a|=1なる任意の複素数だとする。(したがって、aは単位円上にある)
ψをa*ψにに置き換えるとどうなるだろうか?
|a*ψ|2=|ψ|2となるため、得られる確率分布は変わらない。
ψをa*ψに置き換えることは相の変換と呼ばれ、これら2つを区別することのできる測定は考えられない。
すなわち、aを掛けることは系のゲージ対称変換になっており、「ゲージ群」を構成している。
ヤン-ミルズ理論
場の量子論を大きく進展させる技法が、1954年にヤンチュンニンとロバート・ミルズによって発表された。
このとき2人は、ゲージ群においてU(1)として知られる周回群を、より大きなリー群に置き換えてみるという大胆な発想をした。
そのようなリー群の最初の例が2×2の複素行列群SU(2)である。
この群によって、系の内部に隠されたさらなる対称性を見つけることができた。
ただし、この技法には非可換であるという大きな難点がある。
すなわち、2つの対称変換gとhを結合すると、その順序(ghもしくはhg)によって異なる結果になり得るのだ。
ヤン-ミルズ理論は、非可換ゲージ群の研究である。
これによってできた足場をもとに、電弱理論(群U(1)×SU(2)で記述できる)と量子色力学(群SU(3)で記述できる)がその後構築された。
これらを合わせた、U(1)×SU(2)×SU(3)というゲージ群に基づいて素粒子物理学の標準モデルは成り立っている。
ヤンとミルズは、任意の非可換ゲージ群が満たすべき2つの方程式を書きだした。
その方程式は、数理物理学のなかで最もやっかいな問題の一部であるヤン-ミルズの問題を生みだすもとにもなっている。
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ここで紹介したのはヤン-ミルズ理論に関するざっくりとした知識である。
もっと知りたいと思ったら、専門書を片手に、「量子の海」へ漕ぎだそう。
目指せ!!新大理論発見(笑)!!これぞ賢者への道程!!
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