電子の「スピン」といわれたときに、どんなイメージをもつだろうか?
「地球が自転をしながら太陽のまわりを回っているように、電子が自転しながら原子核のまわりを回っている」とか、「電子がコマのように回っている」とか、「フィギュアスケートの選手のように回っている」といったように、「回転」のようなイメージを描かないだろうか?
実は……このイメージは正しくない!
「えぇ~!? なんで!?」 「スピンって言ってますやん(笑)」
紛らわしい名前だし、その概念の背景からも「回転」要素は多少含んでいるのだが、「スピン」とは量子論からくる自由度の1つであり、マクロな世界からみた「回転」とは違うのだ。
量子論? ミクロな世界? じゃあ我々と関係ないじゃん。
いえいえ、実はいろいろと身の回りにあるんですよ、これが。
この感覚的に掴みにくい量子論の「スピン」を分かりやすく教えてくれるのが、今回紹介する書籍↓だ。著者は、ブログ主が愛してやまない高エネルギー加速器研究機構にスタッフとして務めたこともある方で、専門家を集めて立ち上げたチーム名がズバリ、「私にスピンをわからせて!」(笑)。この心強いチームでwebページ連載をしていたことがあり、本書もその連載を元に再編集・再構成したものである。
そして最初に言っておこう……言い訳を(笑)
「スピン」の理論的本質そのものを量子論の基礎知識なしに説明するのは厳しい。こればっかりは、本書をとっかかりとして、専門書を紐解いていただけるとありがたい。サーセン(笑)
ではでは、ブログ主チョイスで「スピン」の話題を語っていこうではないか。乞うご期待!
身の回りのスピン:The SPIN Lands
・宇宙からくる「水素21cm線」は、水素の電子スピンが反転するときに出る電波。 ・夜光時計や標識、そして有機ELディスプレイにも、電子のスピンが反転する「燐光」を利用した技術が使われている。 ・電子の持つ電荷とスピンを両方とも利用する「巨大磁気抵抗効果(GMR)」は、ハードディスクの大容量化の鍵となった。 ・渡り鳥は、眼に含まれるタンパク質のスピンを利用した「量子コンパス」で長い距離を正確に移動する。 ・MRIは、人体に多く含まれる水素の原子核のスピンを利用した画像診断法。 ・ヘモグロビンに含まれる鉄のスピン状態は酸素の運搬に重要な役割を果たす。 ・地球深部の鉄化合物のスピンがその密度や反応性を変化させ、地震や火山噴火などの地球活動に関わっている可能性がある。 [本書よりプロローグより抜粋]
いかがだろうか?
一見、我々の日常とは遠い存在のように思える「スピン」だが、いまやスピンを利用した多くの技術は生活に欠かせないものになっているし、また自然界のそこかしこで巧みに利用されていることにも我々は気づきはじめているのだ。
漠然としたスピンの説明:スピンオーシャン
当記事の序章でも述べたが、この「スピン」の物理的意味合いを説明するのは本当に難しい。
以下に、ブログ主が考えるスピンの性質を平易な言葉でまとめてみよう。
<粒子の量子論でのスピン> ・スピンとは角運動量の一種で、スピン角運動量と呼ばれている。 ・スピン角運動量の特定方向(大概は人為的にz方向とする)の成分は±ℏ/2という2つの値のみをもつ。 ・スピン角運動量の特定方向成分(z成分)に、それぞれの粒子特有の比例係数をかけることで、磁気に対応するスピン磁気モーメントが決まる。 <場の量子論でのスピン> ・特殊相対論を含めて量子力学を記述した場合、その基本要素に2×2のスピン行列というものが含まれている。 ・前述±ℏ/2という自由度はこのスピン行列の成分に由来する。 ・この特殊相対論含みの量子力学は場の量子論の根幹の一つであり、つまりすべての粒子はスピンを持つということになる。 <再び粒子の量子論に戻って> ・原子や分子全体の磁気モーメントは、それらを構成する各粒子の軌道角運動量からくる磁気量子数とスピンの自由度(スピン磁気量子数)の合計、およびそれらの2つの相互作用での増減(スピン軌道相互作用)で決まる。
さらに、粒子のスピンが半整数(1/2,3/2,5/2…)であれば理論的にフェルミオンとなり、整数ならボソンとなる。(フェルミオンとボソンについては以前の記事↓を参考されたし。)
ざっくりまとめると、「スピン」とは場の量子論からくる粒子の基本的性質(自由度)であり、マクロな世界では「磁気」に関わる要素の一つなのである。
……すまぬ、言葉ではこれが限界だ(笑) 詳細については参考書を読まれたし。
スピンが拓く未来社会:スピンエレクトロニクス クルセイダース
以前、スピンを利用した物性物理分野である「トポロジカル物質」を紹介したことがある。
エレクトロニクス(電子工学)は、現代の生活を支えている。パソコンやスマートフォンなどの電気製品の中には、半導体を利用した電子材料がたくさん入っているのだ。その電子材料の中では電荷量と電流が制御されている。
一方、マグネティクス(磁気学)では、電子のスピンが主な研究対象となる。工業的な磁石の開発研究はマグネティクスの一種だ。
近年のナノテクノロジーの進歩によって、これら電子の電荷とスピンの両方を協奏的に利用しようという研究分野が生まれてきた。この新しい分野はスピンとエレクトロニクスという言葉を組み合わせて「スピントトロニクス」と呼ばれている。
トポロジカル物質の記事でも紹介したが、電流と違い、スピン流は熱を発生しないので、エネルギーの損失を抑えて、情報を伝達できる可能性がある。
したがって、スピン流の利用技術は、将来の省エネルギー社会において必須の技術として、その発展が期待されているのだ。
トポロジカル物質の他にも、スピン・ゼーベック効果や非従来型超伝導、量子コンピュータの新様式や有機磁性体の研究応用など、スピンを制御することにより私たちの生活に新たな可能性がでてくるのである。(これらの詳細は本書を参考されたし。)
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ここで紹介したのは「スピン」の量子論的な側面と奥深さのほんの触りである。
もっと知りたいと思ったら、本書を一読して、「量子の海」へ漕ぎだそう。
目指せ!!量子論の隣人(笑)!!これぞ賢者への道程!!
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