「世界はどのように終わるのか」という疑問をめぐっては、歴史を通して詩人や哲学者たちがさまざまに考え抜き、議論を交わしてきた。
もちろん、我々は今現在、科学のおかげでその答えを知っている。
火で終わるのだ。 間違いない、火である。 今後50億年ほどのうちに、太陽は膨張して赤色巨星となり、水星は軌道全体が吞み込まれるだろうし、おそらくは金星もそうなるだろう。 地球はマグマで覆われ、生物などまったくいない、ただの黒焦げの岩になる。 この菌すらいない燻ぶった燃え殻さえ、やがては太陽の外層に落下して、死にゆく恒星の激しく渦巻く大気の中へと、原子となって散っていくことだろう。
「自分たちは死すべき存在だ」ということを人類が初めてじっくり考えて以来数千年、この命題がもつ哲学的な意味合いは変わっていないが、これに答えるツールは変わってきた。
今日、世界の未来に関する問いの答えは、上記のように完全に科学的なものとなっている。
だが、スケールを広げてみよう。地球など、広大で変化に富んだ宇宙の中に埋もれてしまって、どこにあるかもわからない、ちっぽけで哀れな塵のようなものだ。
そこで浮かぶ新たな問い:「宇宙はどのように終わるのか」。極限のスケールですな(笑)
ここでも最新科学は宇宙の変化を正確に理解するための理論と観測法を提供し、我々人類はすべての実在の未来と究極の運命に関する問いの答えにほとんど手が届きそうなのである。
本記事のおすすめ書籍↓は、その宇宙終焉の姿を紹介してくれている刺激的な一冊だ。
著者いわく、この記事作成時点で、我々が手にした最善の観測データと矛盾しない宇宙終焉のシナリオは、ほんの数種類しかない。
現在進行中の観測の結果が出れば、そのうちのどれかが確証され、どれかが排除される。
現時点でありうると考えられているこれらのシナリオを詳しく見ていけば、最先端の科学がどのように展開しているかを垣間見ることができるし、人類を新しい文脈のなかで捉えなおすこともできるのだ。
完全な破壊 = あらゆるものの終焉
新たな文脈は、↑のような前提にしてもなお、ある種の悦びをもたらしうる。
「知の贅沢」……つまり、自分たちは取るに足らない存在だという自覚と、平凡な日常生活をはるかに超えたところに手を届かせる素晴らしい能力とのあいだで我々は、宇宙の最も根本的な謎を解くために、虚空に想いを馳せる贅沢を味わうのだ。
え? 何? もったいぶらずに、早くその終末シナリオを教えろって?
よかろう(笑) いずれもスケール最大級の猛者ばかり!! 乞うご期待!!
5つの終末シナリオ
現在、プロの宇宙論研究者たちの議論のなかで、特に目立つものは下記の5つである。
①ビッグクランチ 急激な収縮を起こして、つぶれて終わる ②熱的死 膨張の末に、あらゆる活動が停止する ③ビッグリップ ファントムエネルギーによって急膨張し、ズタズタに引き裂かれる ④真空崩壊 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死 ⑤ビッグバウンス 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す
以前の記事では宇宙の終わりを熱的死しか説明していなかったが、なんという浅慮!! こんなにパターンあるんかい(笑)
終末シナリオ①から③は、宇宙の膨張を加速させている謎のエネルギー、すなわち、ダークエネルギーの違いに対応している。ダークエネルギーの性質にはさまざまな予測があり、それらを名前やパラメータで区別する。特に、ダークエネルギーの圧力をエネルギー密度で割った値を「ω」と呼ぶ。このωが宇宙膨張を記述する一般相対性理論の挙動を左右する。
ωが-1/3より大きい場合、膨張のペースは減速していく。符号が反転するほどに大きくなると、急激な収縮を起こし、シナリオ①の「ビッグクランチ」になる。
ωが-1と-1/3のあいだなら、緩やかな加速膨張がつづき、最後に「熱的死」にいたるシナリオ②に相当する。(現在の観測データからは、ωは10%ほどの誤差で-1なので、シナリオ②が有力視されている。良かった、嘘は言ってない(笑))
そしてωが-1よりも小さい場合には、シナリオ③の「ビッグリップ」にいたる。このタイプのダークエネルギーは「ファントムエネルギー」と呼ばれている。
シナリオ④の「真空崩壊」は、ダークエネルギーによる終焉とはまったく違う。現在の真空は、安定な「真の真空」ではなく、不安定な「偽の真空」でしかない可能性が、2012年のヒッグス粒子の発見で高まってきたのだ。
ヒッグス場のポテンシャルは、「ソンブレロ型」と呼ばれる独特の形をしている (詳細は本書および参考書を読まれたし)。発見されたヒッグス粒子の質量の解析から、このポテンシャルの形は対称的ではなく、歪であり、現在の真空はその曲線の中の真に安定な極小点(くぼみ)にはない可能性が出てきた。したがって、いつでも「真の真空」への移行が突然起こって、物理法則が急変し、いま存在しているものはすべて崩壊してしまうかもしれないのだ。
シナリオ⑤は、宇宙がやがて収縮して、ビッグバン的な特異点にいたると、跳ね返って再び膨張するという「ビッグバウンス」だ。この収縮とバウンスは何度も繰り返す可能性があり、「サイクリック宇宙論」と呼ばれるものの一つである。
本書で解説しているのは、エキピロティック宇宙モデルと呼ばれるタイプである。特異点の厳密な記述には、既存の物理法則は使えず、一般相対性理論と量子論を結びつけた量子重力理論が必要だが、未完成だ。その有力候補の一つである超弦理論の一種、「ブレーンワールド」宇宙モデルでは、四次元時空のほかに高次元が存在し、この宇宙は高次元空間に浮かぶ「ブレーン」という膜のようなものだとする。
このようなブレーン宇宙どうしの衝突としてビッグバンを説明するのがエキピロティック宇宙モデルだ。衝突のエネルギーから物質が生まれ、その際にビッグバン状態になったという。この宇宙論の最新版では、前の宇宙の情報が存続することもあるというから興味深い。
前述のように、今後の観測でデータが蓄積され、理論もさらに向上すれば、こうした宇宙の未来に関するシナリオも書き換えられていくだろう。
注意点:それっぽいことを言っているが、ここで語ったのはこれらシナリオの大枠だけ。本書ではさらにその背景や周辺の理論物理の知見も教えてくれている。是非是非読まれたし♪
宇宙の標準模型と素粒子の標準模型が欠くピース
シナリオに関連した理論という点でいくと、現在の宇宙論で支配的なパラダイムは、「標準宇宙論模型」または「ΛCDM」と呼ばれている。この描像では、宇宙には4つの基本要素がある。放射、通常の物質、ダークマター(「冷たい」ダークマター:詳細はリンク先)、そして宇宙定数というかたちのダークエネルギー(「Λ」で表される)の4つだ。
これら各要素の量は、すべて正確に量られており、現在は宇宙定数が最大の成分である。宇宙が膨張するにつれて、これらがどのように変化してきたかはよく理解されており、また、インフレーションと呼ばれるきわめて急激な膨張期を含む極初期宇宙も、驚異的なまでに詳細に記述されている。さらに、十分に検証された重力理論として、アインシュタインの一般相対性理論も存在しており、標準宇宙論模型は、完全に正しい理論として扱われている。
この図式においては、現在は宇宙定数が宇宙の進化を支配しているので、我々が理解しているところの重力理論と宇宙の構成要素を使って、この宇宙の進化を特定すればいいことになる。実際にそうしてみると、遠い未来にはシナリオ②の熱的死が訪れることに疑いの余地はないという答えに行き着く。そして、この話はこれでおしまいである。
標準宇宙論模型の問題は、その最も重要な要素であるダークマター・宇宙定数・インフレーションがまったく摩訶不思議なままだということである。ダークマターが何なのか、我々にはわからない。インフレーションがいかにして始まったか、あるいは本当に起こったかすら、わからない。そして、宇宙定数がなぜ存在するのか、それが素粒子物理学から期待されるものとは完全に矛盾するとしか思えない値なのはなぜかもわからない。
それと同時に、模型と矛盾するようなものは、データから一つも出てきていない。100年にわたって厳しい実験を行ってきたにもかかわらず、重力が一般相対性理論以外の何かであるようにふるまうという証拠もまた、まったく見つかっていない。
一方、素粒子物理学から見えるものも、イライラするほどこれとそっくりだ。1970年代、物理学者たちは、知られている自然界のすべての素粒子を記述するために、素粒子物理学の標準模型をつくった。陽子と中性子をつくっている「クォーク」、ニュートリノと電子とその仲間からなる「レプトン」、そして、粒子と粒子のあいだで基本的な力(電磁力・強い核力・弱い核力)を運んで行き来する仲介者としてふるまう「ゲージ粒子」。これらが標準模型に含まれる粒子たちだ。
厳密には、質量はゼロとされていたニュートリノに、ごくごく軽い質量があるとしたりする小さな調整はあった。だが総じて、標準模型は素晴らしい成功を収めており、課せられたすべての実験による検証に合格している。標準模型のパズルの最後のピースとなったヒッグス粒子も、標準模型が自ら予測していたものだ。その後の歳月のあいだ、粒子実験において、標準模型があらかじめ予測していなかったものは何も見つかっていない。
これはある意味で最悪のシナリオだ。標準模型は、実験結果と合致するという点では素晴らしいが、標準宇宙論模型と同様に、きわめて重要ないくつかのピースが欠けているに違いないということがわかっている。
ダークマターやダークエネルギーについて何もいえないことに加え、いくつか大きな「調整課題」が存在するのである。パラメータがきっちり正しい値になっていなければ、すべてが台無しになってしまうよな箇所が、標準模型にはいくつかあるのだ。理想的には、パラメータがある値になっている理由を説明してくれるような、なんらかの理論的な枠組みがあってほしいところだ。今現在でその理由が「観測値がこうだといっているから」とか「さもないと、私たちに良くないことが起こるから」でしかないと気づくとき、なんとも当惑してしまう。
目下の課題として、ヒッグス場をよりよく理解することで、シナリオ④のような運命を評価するということのみならず、質量がいかに機能するかや、自然界の基本的な力が実際に測定されているような強さで現れているのはなぜかが明らかになるかもしれない。さらに、これらの力を統一する理論への道が明確化され、量子重力を理解する一助となるかもしれない。
宇宙論と素粒子の標準模型をいかに改良するかについて、観測や実験からなんらかの指針が得られれば、非常にありがたいのだが、現在のところシグナルはまってくでてこない。
どうすればこれらの欠陥を解決できるかはまだわからないが、宇宙の探究がその助けとなることは間違いないだろう。ありがたいことに、宇宙は空間的にも時間的にもほんとうにものすごく大きいので、観測すべき極端な環境をたくさん提供してくれる。
「無常な旅」を生きる:思考し、問い続ける生物
さてさて、5つの宇宙終焉のシナリオは、それぞれが異なる物理的プロセスに支配されているが、どれもある一つの点では一致している。「終末は必ずくる」という点だ。
現在の宇宙論関連の文献で、宇宙は変化することなく永遠に存在すると真剣に示唆するものはないといっていい。少なくとも、事実上すべてを破壊するような転移が起こって、少なくとも宇宙の観察可能な部分は、どんな組織化された構造にも居住不可能となる。
最初にも述べたように、そのだいぶ手前で地球にももちろん終わりがくる。人類は永遠のパーティーに参加できない。我々が抱えるすべての課題解決のブレークスルーが訪れるまで、どれだけ長く待てばいいのだろう? 誰にもわからないし、知る方法もない。
我々はいま、「地図の縁の外」を探検している。 200年ぐらいのあいだ、データをあれこれ集めて、ようやくその信号が見えて、そこで戻ってみると、「それは始めからずっと、目の前にあったんだ」と気づく。 そんなことになるかもしれない。 少し嫌なシナリオだが、人間の人生の長さ程度の時間尺度で解決しなきゃならないなんてことはないだろう(笑) 当面のあいだ、我々は森の中を通る新しい小道を拓いて、そこに隠れている何かが見つかるか、試してみる仕事を続けるのだ。 いつか、遠い未来という未知の荒野の奥深くで、太陽は膨張し、地球は滅び、宇宙そのものも最期を遂げるだろう。 それまでは、我々には宇宙全体を探検することができる。 想像力を限界まで発揮し、宇宙という人類の住処を知るための新しい方法を見出しながら、ものすごいことを学び、創りだすことが、我々にはできる。 そして、それを互いに共有することも。 人類が思考する生物であるかぎり、我々は問うことをやめないだろう。 「次は何が出てくるかな?」
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ここで紹介したのは宇宙終焉……その驚天動地なシナリオのほんの概要である。
もっと知りたいと思ったら、専門書を読みふけって、「知識の宇宙」へ探索に出かけよう。
目指せ!!宇宙の住人(笑)!!これぞ賢者への道程!!
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