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続・超ひも理論 ~ホログラフィー原理とはなにか~

相対論・宇宙
問題は
発生したのと同じ次元では
解決できない

アルベルト・アインシュタイン (1879-1955)

さて、問題といえば、現代物理学では二本柱である量子論と相対論を統合させることが目下かつ最大の課題と考えられている。

ループ量子重力理論と超ひも理論(超弦理論)はそうした「量子重力理論」の有力候補であり、前者推しのブログ主としてはいささか不本意(?)であるが、以前に超ひも理論について平易に解説したことがある。

超弦理論について知りたい
いろんな分野の書籍が出回り、科学がどんどん身近になっていく昨今。本屋などで超ひも理論(正確には超弦理論)という...

そして最近、超ひも理論から一歩進んだ考え方として、「ホログラフィー原理」を取り扱った初学者~初級者向けの読み物、および中級者向けの専門書を入手した。

魅力的な構成と文面で知的好奇心を唆られつつ、久々にがっつり理論物理学に触れることができて、充足感にひたる今日この頃。

~完~

……

………で終わってはさすがに怒られる(笑)

そんなわけで、今回は「続・超ひも理論」と題して、ホログラフィー原理を取り上げよう。

AdS/CFT対応と聞いて興奮する読者もいるのではないだろうか♪ 乞うご期待!!

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幻の大地 ~もう一つの世界の物語~

物理学者が宇宙と素粒子の物理学を融合する夢を追いかけている旅の途中で、
誰もが予想していなかった、
ある考え方が登場しました。

それがホログラフィー原理です。
(またの名を「ホログラフィック原理」
もしくは専門的には「AdS/CFT対応」とも呼ばれています。)

ホログラフィー原理とは、
「重力を司っている宇宙は、
実は重力とは関係ない力と、
その力を受けて運動している物質から浮かび上がってくる、
ホログラムの像のようなものである」
という考え方だといえます。

(おすすめ書籍1冊目 第1章より一部編集して抜粋)

我々は今まで次のように考えてきた。

「物質の間には力が働く。その力とは、重力、電磁気力、弱い力、強い力の四つである。」

一方、ホログラフィー原理が予言するのは、次のようなことである。

「重力が働いているシステムは、それと等価な別のシステムによる供述が可能である。そしてその別のシステムの記述には重力が含まれない。」

つまり、重力が働いているように見えるシステムは幻であり、重力によって引き起こされている様々な現象には、もっと根源的な別の数学的記述方法がある、ということになるのだ。

この「別のシステム」には、もう一つの大きな特徴がある。

それは、「重力が働いているシステムと等価な別のシステムとは、重力現象がおきている空間よりも一つ次元が低い空間のシステムである」ということだ。

ホログラフィーとは、
元々は2次元の写真を立体的に見せる、
つまり3次元の像として見せる技術のことです。

ホログラフィーの技術を使うと、
縦と横だけの2次元の写真に光を当てることで、
縦・横・高さの3次元空間に浮かぶ物体の像が再現できます。

物理学におけるホログラフィー原理は、この「次元の違い」から名付けられている。

例えば、重力が働いている3次元空間のシステムを、重力が存在しない2次元空間(2次元の面)のシステムとして記述できてしまう、という考え方だ。

これは、重力が働いている3次元の世界が、重力が存在しない2次元の世界と「等価である」ということを意味している。

等価とは「区別できない」と言い換えることもできる。

我々は3次元空間に住んでいると思っているが、実はそうではなく、この世界は本当は2次元空間なのかもしれないのだ。

ホログラフィー原理は、
トホーフト、サスキンド、ホーキングマルダセナ
といった理論物理学者たちによって創り上げられ、
数学的にも大きな理論体系として整備されつつあります。

ホログラフィー原理という突飛な考え方はなぜ重要なのでしょうか?

ミクロな素粒子に働く重力以外の三つの力の強さは、
「場の量子論」と呼ばれる数学的な枠組みを使って計算することができます。

一方、重力だけは、
ミクロな素粒子に働いたときに、
どのくらいの強さになるかなどが現時点では計算不能です。

もし将来、
ホログラフィー原理があらゆる重力現象に適用できることが
理論的に示されたなら、
重力現象を、
重力を含まないシステムの問題としてとらえ直すことが
できるようになります。

例えば、ブラックホールのような重力が極めて強い天体の近くで起きる現象を、重力以外の力で相互作用する素粒子の問題としてとらえ直すことができるようになるわけだ。

そうすれば、重力を直接取り扱う必要がなくなり、「素粒子に働く重力は計算不能」といった問題を回避することができるようになる。

ホログラフィー原理を使うことで、四つのすべての力について計算可能な理論を完成させることができるかもしれないのである。(もちろんループ量子重力理論もその可能性はある!)

「力の統一」は、多くの物理学者の夢であり、課題である。

ホログラフィー原理登場前は、「四つの力はすべて基本的な力である」という考えのもとで、「力の統一」が実現されるはずだと期待されていた。

しかし現在は、これまでとはまったく思いもよらなかった方法で、「力の統一」が実現されるのではないか、と考えている物理学者もいる。

すなわち、
重力だけは幻の力であり、
他のシステムから副次的に生まれるものである。

少し疲れてきたかな? 

でも、まだまだいきますよ(笑)

天空の花嫁 ~ブラックホールを追い求めて生まれた物語~

前章では、ホログラフィー理論でブラックホール近傍の現象を記述できる可能性を述べた。

だが、歴史的にはその逆で、つまりブラックホールの研究からホログラフィー原理の着想が生まれたのである。

アインシュタインは1915年に重力の理論、
すなわち一般相対性理論を打ち立てました。

その1年後、シュバルツシルトが
一般相対性理論のアインシュタイン方程式の数学的な解として、
ブラックホール解を見つけました。

1973年には、
ブラックホールの性質を理論的に調べていたヤコブ・ベケンシュタインが、
ブラックホールと熱力学の間に類似性があることを発見しました。

1975年には、
スティーブン・ホーキングがベケンシュタインの研究に触発されて、
ブラックホールが温度をもつことを理論的に示しました。
この研究によってブラックホールの熱力学的性質(※)が明らかになり、
ブラックホールの研究が飛躍的に進むことになります。


※ブラックホールの熱力学
(1)第一法則:
ブラックホールのエントロピーは次のBekenstein-Hawkingの公式により、表面積(A)で与えられ、熱力学の第一法則(dE=TdS)を満たす。
 S=(kBc3/4Gℏ)・A

(2)第二法則:
ブラックホールのエントロピーである表面積(A)は、少なくとも古典的には減少をすることがない。これは熱力学の第二法則に対応する。

なお、ブラックホールの基本が知りたいって人は↓を参考にされたし。

ブラックホールを知りたい
ブラックホール…あらゆるものを吸い込む時空の穴。それは、宇宙に存在するもののなかで、最も奇妙で謎に満ちた天体で...

これまでの話の肝として、ブラックホールのエントロピー、すなわちブラックホールのもつ情報は、「ブラックホールの中(体積)に存在するのではなく、その表面に何らかの形で”書き込まれている”」ということが挙げられる。

こういった中で1993年から1995年ごろ、
ヘーラルト・トホーフトやレオナルド・サスキンドが、
この考え方をブラックホールに限らない、
この宇宙全体に適用できる本質的な原理だと考えました。

すなわち、
3次元空間の重力現象の情報は、
なぜかは分からないものの、
2次元空間に"書き込まれた情報"だけで記述できるはずだと考えたのです。
これがホログラフィー原理と呼ばれるようになりました。

ホログラフィー原理は、ブラックホールと熱力学との類推から生まれたため、
当初はその信憑性は確かなものとはみなされませんでした。

しかし、
その2年後の1997年には、
フアン・マルダセナがホログラフィー原理が機能する具体例である
「AdS/CFT対応(※)」と呼ばれるものを示し、
その研究が一気に花開くことになります。


※AdS/CFT対応 (またはゲージ重力対応)
AdS:Anti-de Sitter Spacetime;反ド・ジッター時空
CFT:Conformal Field Theory;共形場理論
SYM:Supersymmetric Yang-Mills theory;超対称Yang-Mills理論

10次元AdS×S5時空の弦理論は、largeN極限のN=4U(N)SYMと等価である。
 Z重力=∫DGµν(x)ei/ℏ・S[G]
 Zゲージ力(仮想)=∫DAµ(x)ei/ℏ・S[A]
 
 Z重力=Zゲージ力(仮想)

(詳細はおすすめ書籍2冊目を読まれたし。悪しからず。)

なお、この段階でとても大事な注意事項がある。

ここで取り扱うAdS(反ド・ジッター時空)は”我々の住む世界とは異なる時空”という点だ。

相対論によると、空間と時間は同じ種類のものだとみなすことができ、両者合わせて「時空」と呼ぶ。そして時空は曲がることで重力を発生させる。

時空が曲がっていると、平行線が交わったり、三角形の内角の和が180°でなくなったりと、常識では考えられないことが起こる。

AdSもそのような性質をもつ仮想的な時空の一つだ。

AdSの空間部分は「双曲空間」と呼ばれるものになり、この世界では平行線はどんどん離れていく。通常の円なら、中心から円の端に到達するには、円の半径分だけ移動すればよいが、双曲空間では、円の端まで無限大の距離となる。また、円周も無限大の長さとなっている。

(相対論としては、リーマン幾何における負のスカラー曲率をもった空間のこと。一方、我々の住む世界はほぼ平ら、もしくは球面のような曲がり方であり、曲率は0 or 正となる。ここでも詳細は割愛。悪しからず。)

なぜ反ド・ジッター時空という、
私たちの住む世界と異なる時空をわざわざ考えるのか、
不思議に思った方もいるかもしれません。

確かに反ド・ジッター時空は私たちの住む世界とは異なります。
しかし、
それは私たちの住む世界がたまたま反ド・ジッター時空ではなかっただけで、
物理学的には反ド・ジッター時空は「ありえた世界」だといえます。

そういったありえた世界について理論的に研究することは、
私たちの住む世界についてより深く知ることにつながります。


そのため、
物理学者はこういった仮想的な世界についても
理論的に研究しているのです。

かなり疲れてきたかな?

でも、まだまだまだいきますよ(笑)

導かれし者たち ~繋がる物語、そしてその先へ~

では、そんなAdSとCFTがどう対応しているのか考えよう。

CFT側における力の法則は、AdS側からの”影”のようなものとして理解できるということが重要な点である。

地面に移った自分の体の影は、2次元空間である地面に投影されたものだ。一方、影を作っている自分の体は、3次元空間の物体である。

ホログラフィー原理において、1次元低い空間におけるゲージ力と、重力で曲がった時空の間の関係は、まさに影と実体の関係のようなものだといえる。

どちらもれっきとした物理学理論なので、どちらが偉いというわけではない。重力側(AdS側)での現象と、CFT側での現象は、同じ現象の違った見方なのだ。

それでは、
超ひも理論を使ってホログラフィー原理の理解を試みてみましょう。

ホログラフィー原理はまだ証明ができていません。
しかし、
素粒子をひもだと考えると、
ホログラフィー原理がなぜ成り立つと期待できるのかが見えてきます。

まず、
偏光をもつ素粒子(※)が空間内を運動している様子を想像してみましょう。
この素粒子は、
超ひも理論では開いたひもに相当します。

開いたひもの運動の軌跡をつないでいくと、
一つの局面が現れます。
このような局面を超ひも理論では「世界膜」と呼びます。
世界膜の形はひもの運動の様子を全体的に表したものだといえます。

開いたひもの両端は、
平面にくっついているとします。
実はこの平面に沿った方向が、
ホログラフィー原理におけるCFT側の世界に相当します。

一方、
平面の外に飛び出る方向も含めたすべての方向が、
ホログラフィー原理におけるAdS側の一つ次元が高い空間に相当します。


※偏光
ゲージ粒子に特徴的な性質。その素粒子に特徴的な「向き」のことで、運動している方向と垂直になっている。
超ひも理論では、電磁波(光子)等の一方向の偏光をもつ粒子を「両端が開いたひも」と考え、重力波(重力子)のような二方向の偏光をもつ粒子を「両端が閉じたひも」として扱う。

この世界膜を平面と平行にスライスしてみよう。すると、切り口は閉じたひもになる。

つまり、縦横へのスライスの仕方に応じて、世界膜の形で決められる一つの物理現象(ひもの運動)を、「開いたひもがCFT側の世界で運動している」という解釈と、「閉じたひもがAdS側の世界で運動している」という解釈ができることになる。

一つの物理現象に対して二つの異なる解釈ができるというわけだ。

開いたひもが一方向の偏光をもつ素粒子、
閉じたひもが重力子を表わしているとすれば、
CFT側の世界での偏光をもつ素粒子の運動、
すなわちゲージ力が働いている現象は、
空間の次元が一つ高いAdS側の世界で重力が働いている現象とも解釈できます。

これはまさにホログラフィー原理でいわれていることに他なりません。

一つの現象に対して二つの解釈ができる場合、
物理学ではこれを「双対性」と呼びます。

ホログラフィー原理という双対性は、
以上のように超ひも理論を使って理解できることが分かります。

ここまでの流れでいくと、「ホログラフィー原理は超ひも理論で完全に理解され、超ひも理論によって量子重力理論は完成したといってもよいのではないか」と思われる人もいるだろう。

しかしながら、現時点ではホログラフィー原理が適用できることが分かっているのは、前述した通り、我々が住む宇宙とは異なる仮想的な宇宙(AdS)である。

超ひも理論において、
ひもが重力子や光子を表わすというのは、
実は現時点では平らな時空上でしか計算されていません。

曲がった時空におけるひもは、
その性質がよく分かっていないです。

ブラックホールは曲がった時空の典型例ですが、
そのような状況でひもがどのように振る舞うかは、
まだ解明されていないのです。

AdSのように本質的に曲がった時空において、
ひもの振る舞いを数学的にも矛盾のない形で計算できる手法が確立できない限り、
量子重力理論としての超ひも理論は不完全であり、
ホログラフィー原理の本質的な理解にはつながりません。

疲労困憊かな?

もうちょっとだけいきますよ(笑)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

最後に、まだまだ建設中であるホログラフィー理論の展望を紹介しよう。

ホログラフィー原理ははたして私たちの宇宙に適用できるのか?

その問いに答えるためには、
ホログラフィー原理が成立するさらなる具体例の発見や、
重力側とCFT側の間の辞書(対応関係のリスト)を作っていくことが重要です。

情報エントロピーを用いての情報理論への一般化や、
曲率が正の時空にも適用できるような例の提案など、
ホログラフィー原理の限界を知る旅は、
まだまだ終わりに到達する気配がありません。

情報理論や超ひも理論を結集して、
さらに新しいアイデアを取り込みながら、
ホログラフィー原理の限界に挑むことが今後も必要でしょう。

ホログラフィー原理によると、
重力による現象が実はホログラムの像のようなものであることを示唆されます。
さらにいえば、
空間自体がホログラムの像のようなものであり、
空間は自然界の本質的な要素ではないかもしれません。

そもそも、
空間がどのようにしてできているのかを問えるような学問体系は
これまで存在していませんでした。
どんな科学でも、
まず空間が存在していることを暗黙のうちに仮定し、
そしてその空間の中での物体の運動などを記述します。

ところがホログラフィー原理によると、
空間はより基礎的な何かから創発するものであり、
あらかじめ存在しているものではない、
ということになります。

ホログラフィー原理を解明するということは、
「空間がどのようにしてできているのか」を解明することにつながります。

そして現時点では、
この問いをサイエンスとして扱うことができるような理論的枠組みは、
ホログラフィー原理に基づいた物理学しかないのではないかと思います。

(おすすめ書籍1冊目 第9章より一部編集して抜粋)

ここで紹介したのはホログラフィー理論の概要と基本のほんの一部である。

もっと知りたいと思ったら、専門書を片手に、ブラックホールの向こう側(?)を目指そう。

ただし、その距離は相対論的には無限大(笑)!! これぞ賢者への道程!!

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